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 もしも、なんて。
 そんな仮定、意味がないということをこの十年で知ってしまったけど。

「ねえ、骸」
「はい?」
「もしも、オレがお前に会わなかったらオレはどうしていただろうね、今頃」

 意味がない問い掛け。
 今日に限ってそんなことを訊く理由をこいつは気付いているだろうか。
 骸は急に訊かれたことが予想外だったのだろう、一瞬きょとんと呆気にとられた顔をして。

「さあ……結局ボンゴレボスでは? アルコバレーノから君が逃げられるとも思いませんし」
「いや、まずマフィア以外で。それだと変わんないじゃん」

 即答。だって骸に会ってなかったらきっと、オレはどれほどマフィアになれって言われても力を手に入れても最終的に頷くことはなかったはずだから。
 アイツは無理矢理オレをボスにさせることはないだろう。それくらいわかる、伊達に十年もアイツのムチャぶりに付き合ってきたわけじゃない。
 そんなことを考えながら執務机に肘をついて手を組み、そこに顎を乗せて骸をじっと見つめる。
 マフィア以外……と呟いて、少しの間考え込んでいた骸が出した答えは。

「……どんくさくて上司から怒鳴られっぱなしの薄給サラリーマンとかじゃないですか」

 おい。……おい。

「お前はオレをなんだと思ってるんだよ」
「今も昔も詰めが甘いダメツナですよ、君は」
「はあ? オレ巷じゃ話題の冷徹ボスのはずなんだけど」
「どこがですか。余所では猫被りまくってますけど、ファミリーの中ではアルコバレーノに怒鳴られ雲雀に殴りかかられで力関係全く変わってませんし」
「前よりはあの二人もオレの言うこと聞いてくれるようになったってば!」
「はいはい」

 適当に流すなムカつく!
 ああ確かに否定はできないけどさ!

「綱吉」
「なんだよまだ何かあんの?」
「だから変わってませんよ、君は。僕と出会ったあの時からずっとね」

 あ。
 なんだ、お前も覚えてて、

「ああ、先程の質問はあの時僕と会わなかった方がよかったという意味だったんでしょうか? それは傷付きますね……」
「笑いながら傷付くとか言われても説得力0だから」
「おや、それは失礼」

 そう言っても骸はクスクスと笑うのを止めない。……もしかして最初から全部お見通しとか言わないよな?
 横を向いてむくれていると前にかかる影。視線を戻せば思ったよりも近くに、というか目の前にオッドアイがあって。
 無意識に瞼を閉じればすぐに重なる柔らかい感触は、もうとっくの昔に覚えてしまった。

「ん、」
「つなよし、」

 キスの合間に名前を囁かれたら、もうさっきのことも忘れてふにゃふにゃになっちゃう自分が情けないというか恥ずかしいというか。くそ、思い通りになんかなってやらないからな。
 自分から舌を差し入れればぴくりと覆い被さる身体が震えた気がしたが、すぐに相手からも絡められてお互いに貪り合う。ちゅぱ、と唇を離せばからかうような声。

「こちらはあの頃よりずっと上手になりましたね」
「そりゃそうだろ、十年も経てば」
「でも相変わらず僕の声には腰砕けになっちゃって可愛いですよ」
「うっうるさい!……ってうわっ?!」

 急に身体が宙に浮いて、大きな声が出てしまったのは仕方ないだろう。姫抱きなんて、いいかげん20代も半ばの男同士でやるもんじゃないと前から言ってるのに。こいつはどうやらいい年した成人男性としては色々と複雑なこの心理を理解する気はないらしい。
向かっているのは隣の仮眠室。と、いうことは。

「……骸」
「おや、構わないでしょう? 僕に声をかけた時点で今日の仕事は終わっていたようですし」

 本当にお見通しってか。こういう奴だって知ってたには知ってたけどさ。思わず溜め息が漏れた。
 それを気にした様子もなく、骸は都合のいいことに開けっ放しだったドアから部屋に入り。ベッドに下ろされれば、覚悟を決めてドアを閉めに行った相手に声を掛ける。

「お手柔らかに。確か明日からまた任務だろ」
「だからこそ保証はできませんね。それに、今日は歯止めが効く自信がない」
「……そうですか」

 まあいいか、今日は。溺れてしまっても。
 ドアが施錠される音が響いた。


End




出会ってなかったらきっと、僕は僕じゃなかった。

up:2013/09/11

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