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「なあ、早く殺さないのか?」

 クーデターが起こったのは昨日の昼前で、
 オレが捕えられたのがちょうど日没した頃。
 そいつの性格はよく知ってるから、すぐ幽閉されるだろうと思ってた。
 でも、昨夜は何故か地下牢ではなく自室(見張りはついてたけど)で一晩明かして、
 今日ご丁寧にも朝食まで終えた後から謁見。

 で、それが始まってからすでに30分以上過ぎてるってのに、
 オレが昨日まで座っていたやたらと装飾品が付いた椅子に腰かける男は、未だ何も言わずにオレを見つめるだけだった。

 衛兵達も下がらせているので文字通り二人きりの中、沈黙に堪りかねて疑問を口にすると、途端にそいつ――骸が眉を顰めた。

「何をおっしゃるのですか陛下。何故僕が貴方を殺さなければいけない」
「お前がオレから王位を奪ったクーデターの首謀者だからだよ、骸。いや、クーデターは成功したみたいだし、今はオレがお前を『陛下』と呼ぶべきかな?」
「とんでもない。どんな立場であろうとも貴方が僕の主ですよ。唯一無二のね」
「それは光栄だね。でも、その唯一無二の主とやらから王座を剥奪して、こうやって拘束している家臣の考えが、オレにはどうしても分からないんだ。よかったら説明してくれると有難いんだけど」

 じゃら、と音を立てる手錠を見せつけて溜息を漏らす。
 一晩中ずっと考えてたけれど、その答えは見つからなかった。
 オレにとって骸は、自分の出世にしか興味がない欲を丸出しにした貴族ばっかの王宮内で、ただ一人心から信頼が置ける家臣だったから。
 不満なんて全然なさそうだったし……まあコイツは嘘が得意だから、見せていなかっただけなのかもしれない。
 結局オレも人を見る目がなかったってことか。信じてたんだけどなあ。

「分かりませんか?」
「分かってたらこんな質問しないし、お前が強硬手段に出る前に止めるさ。……なあ、何でこんなことしたんだ」

 つーかいきなりすぎるんだよ。遠方の公国に出張に行ってて、帰って来たら即クーデター起こすとか普通考えないだろ。
 そういう時に限って王家に伝わるっていう超直感は働かないし。

「そうですね……貴方を殺したかったから、でしょうか」
「は? さっき殺さないみたいなこと言ってなかったか?」
「勿論、貴方自身を殺したりなんてしません。僕は、『ボンゴレ王国十代目国王』を殺したかった」

 それ、オレじゃん。意味が分からない。

「……ねえ、陛下。隣国の姫君と婚約したそうですね」
「?」

 突然話題が変わって、付いていけずに何度か瞬きをする。
 それとこれがどう関係あるんだ?

「どうして僕がここにいない間にあっさり決めてしまったんですか?」
「そりゃ……元老院のじーさん達が強く言ってきて……断れないだろうと思ったから……」

 正確には、断るのも面倒だったから、だけど。
 問われるまま何気なく言った言葉だったが、それに対し骸はさも不愉快そうに顔を歪めた。

「……やはりあの耄碌したジジイ共でしたか。先に殺しておいて正解でした」
「っお前……殺したのか?!!」

 何があっても、オレは民を殺すことだけはしないように命じていたのに。

「何をそんなに驚いているのですか。新体制になるのであれば多少の血が流れるのは仕方ないですよ」
「だったら……オレを最初に殺せよ!」
「そんなことしませんって先程から言っているでしょう。……アイツらも悪いんです。僕が離れた隙に婚約など……貴方を政治の道具にしないように、ずっと守ってきたのに」
「……え?」

 守ってきたって……どういうこと?

「気付いていませんでしたか? こういうところでは本当に鈍いですね。貴方が王位を継ぐ前から、縁談なんて山程来てましたよ。大国から小国まで、様々な思惑があって。でもそんな政略結婚なんかしないで自分で伴侶くらい決めてほしいと思ったから、僕は手紙が来るたびに破り捨てていました」
「骸……」

 全然知らなかった。
 それなら、オレがよく考えもせずに婚約を認めたのは骸に対する裏切りになるのか。
 これが理由……?

「いや……自分で伴侶を選んでほしいなんて、ただの言い訳に過ぎない。……僕は、貴方を誰にも渡したくなかった」

 何、言って、
 骸の言葉が理解できなくて思考が飽和状態。
 すると気が付いた時には、いつの間にか骸が目の前に立っていた。

「貴方が婚約したという知らせを聞いて、気が狂いそうな程後悔したんです。いつかそうなることは分かっていたのに、貴方の一番を誰かに取られることを考えなかった自分の愚かさを」


 傍にいることができればそれだけで十分だと言い聞かせていました。
 でも、手放してしまったとき、自分がどうなるのか分からなくなりました。


「失えないなら、奪ってしまえばいいんです。僕以外のモノ、全て。」
「……それが、帰って来るなりクーデターを起こした理由か」
「はい」

 にっこりと、心から満足そうに骸は笑った。

「ですから、『ボンゴレ王国十代目国王』には死んでもらいます。ただし、『沢田綱吉』には僕の隣で生きていてもらいます。一生、ね」

 頬を撫でられ、その手の冷たさに驚いて首を竦める。
 それが手から逃げるように見えたのか、今度は身動きが取れないくらい強い力で抱き締められた。

 ああ、こいつは、

「お前って馬鹿だよな」
「……貴方に言われる筋合いはありません」

 骸の顔はオレの肩に押し当てられてるから見えない。
 でも、泣いてると思った。
 涙は流してないかもしれないけど。

「だってそんなの、欲しかったものを取られそうになったから駄々捏ねてるガキと一緒じゃん。そんなんでこんなことするとか……ばーか。ホントに馬鹿」
「いくら貴方でも、それ以上言うと怒りますよ?」

 伝わってきたのは本気の殺気だったけど、それに構わず骸の身体に体重を預けるとびくりとその身体が震えるのが分かった。

「お前は一人で突っ走りすぎなの。縁談来たらまずオレに言えよ。勝手に処理してんじゃねえよ」
「……そうしたら、貴方は断らないでしょう?」
「だろうね」

 あ、また腕に力入った。そろそろ息が苦しいんだけど。

「でもさ、それはお前が何も言わないからだよ」

 お前がそう望んでいることを知っていたら……
 なあ、何で分からないかな。
 間違ってるんだよ、最初にすること。
 クーデターなんて極論に走る前に、言うことあるだろ。

「そうしてたら、オレもあのじーさん達に色々言ってやったのに。殺すまでもなく、オレにいらないちょっかいかけさせないようにする手段なんていくらでもあるんだから」

 骸がようやく顔を上げて、訝しむような視線でオレを見た。
 何言っているのか分からないって顔。
 そんな骸に笑いかける。

「それに、きっと誰と結婚しても、オレの一番は変わらなかったよ」

 鈍いのはお前だ。
 どうせ政略結婚なんて王族として生まれた以上避けられなくて、形だけの王妃なんかに心を預けることなんてできやしない。
 だから、深く考えなかった。
 誰がオレの隣にいても、その人はオレの一番じゃない。

「なあ、これだけ言えば分かるよな?」

 骸が目を見開く。
 その表情を見て、何となく抱きしめたいなあと思った。
 手錠に繋がれた手では無理な話だけど。

「へい、か、」
「違うって。オレの名前、知ってるよな」
「……綱吉様」
「『様』なんてもういらない」
「……貴方を、そうお呼びしてもいいのですか?」
「今、この国で一番偉いのはお前なんだ。元老院も無力化させたんだろ? お前に五月蠅く言ってくる奴なんか誰もいない。だから言えよ、骸」

 クーデター成功させといて、こんなところで弱気になるとかどんな王様だよ。
 でも、オレは――

「……綱…吉」
「うん」
「ずっと……好き、でした。家臣としての敬愛以上に、貴方を愛していた」
「うん」
「だから、僕のものになって。他の人間なんて見ないで。僕を、……愛して」
「……うん」

 大馬鹿だ。コイツは。
 オレは、昔からお前しか見てないのに。

 ぎゅうぎゅうに抱き締めてくる骸に嘆息。だから苦しいんだっつーの!

「……今更どうのこうの言わないけどさ、取りあえず手錠外せよ。別に逃げたりしないし、何よりお前にちゃんとさわれない」

 呟くと、一瞬の間の後、

「殺し文句です」

 聞こえるか聞こえないかの囁きと共に、口付けが落とされた。
 同時に手錠が砂のようにさらさらと零れて空気中に消える。
 ようやく自由になった手を相手の背中に回すと、さらに激しく貪られて。

 どうしようもなく愚かで愛しい反逆者から与えられるそれを、オレは瞳を閉じて甘受した。


End




何だかんだいって両思い。
簡単に言うと痴話喧嘩でクーデターみたいな話ですねいいのかコレ←
フリーですので、お気に召しましたらお持ち帰りくださいませ。

up:2012/01/01

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