dolce log&take | ナノ
石鹸と姿見用の鏡
ふんわりと優しいソープの香りが肌を包む、ぷかぷかと暖かい水は俺の体の疲れを確実に癒してくれた。ふと口ずさむのはさっきテレビで聞いたばかりの歌謡曲。なんだか耳に残るメロディだったから覚えてしまっていたらしい。つらつらと口から零れ落ちるメロディはなんだか鮮明だった。
お風呂ではたまにこうしてじっとしていることがよくある。ただ、ふわふわとした感覚だとか、体を重くする水圧の感覚だとかが俺は好きだった。
ざば…と人肌に暖かいお湯から体を上げて、いつも愛用しているピンク色のお風呂椅子に腰かける。そして鏡を前に石鹸を手にとった。
その時だった。
「あれ、…緑川?」
ガラガラと開いた扉。かけられる爽やかな声に、きょとんとした顔。
…ねぇ、なんで?超意味が分からないんだけど…なんで 覗いてんの? しかもそんな堂々と。 唖然とする俺を前にしても、まだ彼は全然余裕。寧ろ嫌な笑みをも浮かべた気がした。
「丁度いいや、一緒に入ろう?」
「え えっ、ヒロト!?」 「いいよね?背中、流してあげる」
問いかけてきても返答なんて聞く気はじめっからないくせに。 そんなことを思っていた矢先、突然割り込んできた彼……ヒロトはゆっくりと俺の素肌に手を回す、そして空いた片手で俺が手に持っていた石鹸を奪いとった。
「緑川って髪長いよね……」
石鹸を擦り付けられながら、呟くと髪の束を手にとられて遊ばれた。なんだかくすぐったくて身を捩る。 ヒロトはそんな様子にくすくすと笑って、更に敏感な俺の脇腹の辺りやお腹の辺りを石鹸のついた手で撫で回す。
「っ、ちょっと……ヒロ…ト」 「なに?」
「そこ、くすぐった…いぃ」
たまらず漏らした言葉にも彼は冷静に対処を見せる。言った言葉は「いやでもちゃんと洗わないと…」だった。
そんなことわかってる!
「っ…だめ、これ以上したら…!」
ずく。 何かが硬度を増すような気がした。
「あ…れ?緑川……?」
「っう〜〜〜!」
鏡越しに向こうに見えるヒロトと目があってつい視線を床へと落とす。目に入った所にはヒロトの色白な太ももがあって、ついまた顔が赤くなった。
「なに…?興奮してきた?」
「っちが…!」 「仕方ないなぁちゃんと責任取るよ…」
「そんなの言ってない!」
するりと伸びてきた嫌らしい手を払い除けると、彼は小さく舌打ちをした。
なに!? なんで舌打ち!?
あまりの反応にびっくりして舌打ちをした本人の方へ顔を向ける。するとその瞬間、唇に触れた柔らかな感触。
「ん!、ふっ…う」
まるで吸い付くような強いキスについ体の力が抜けて彼に身を委ねるかたちになってしまうと、唇を離した彼はくすくすと笑って俺を見下ろした。
「ね?いいよね、緑川」
「なに、が…」
はぁはぁ、と息を乱す。目の前がくらついて、彼の顔がまともに見れない。
「責任、俺が取らないと緑川一人でしなくちゃならないよ?」
あぁ それは困る…。 ぼんやりした頭でそんなことを思うと、自分で勝手に思っておきながら体が急に熱くなるような気がした。
ずくり。想像するとまた疼く。
そこに早く触って欲しくて。 でもなんだか恥ずかしくて。
彼の手が包み込んでくれる優しさが欲しくて。 だけどどうしてもそれが言えなくて。
どうせなら許可なんて求めずに押し切って貰いたい。そしたら自然と彼に全てを委ねてあげられるのに。
「…ヒロト、」
「ん?」
「触って」
石鹸と姿見用の鏡 (それから俺たちはお互いに繋がりを求めて深みに落ちていくんだ)
- E N D -
茶会で上がってきましたお風呂ネタです!
6月12日〜13日に行われた基緑茶会に参加していただいた方だけにフリー。お持ち帰りはお好きにどうぞ^^ 一言くださると喜んで舞い踊ります←
茶会に来ていただいた皆様、ありがとうございました!
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「現象α」のきおりさまより茶会記念フリーを掻っ攫ってきました! 基緑茶会にて出た「お風呂ネタ」を皆様で書いてとせがんだら、茶会が終わる頃に書き上げて下さった作品です。仕事が速い上に、なんという素敵な文…!きおちゃんあなたの正体照美様ね…!お風呂場の可愛い二人の会話にニヤニヤさせて頂きました…! 転載許可も頂いたのでここに掲載させていただきました。 本当にありがとうございます!ご馳走様でした^^
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