dolce text | ナノ



熱に浮かされて

20000Hitフリリク / mukuge様へ



熱い。

外気もそうだが、自分の肢体の内がどことなくじんわりと熱気を帯びている。夏の暑さではない異様な熱は、どうやら私の体だけでなく頭までおかしくしてしまったようだ。


扇風機からの弱々しい風によって揺れる短い袖、そこから剥き出しになった少し汗の滲んだ腕に、そっと触れる。感じるのは、自分と違って高い体温、それから微かな脈の鼓動。
扇風機と顔を合わせるようにしていた顔をこちらに向けて、不機嫌そうになんだよ、と呟いた彼の腕をそのまま引っ張って思いっきり自身の方に引き寄せて。
体勢を崩したそいつはもちろん私に向かって倒れてくる。それを受け止めて私も一緒に畳に横になった。

「おい、てめぇ…何がしてぇんだ」

そのままの体制、私の腹に晴矢の頭が乗った状態のまま、晴矢は文句を言った。そんな事を問われても熱に侵された私の脳はしっかり働いてくれず、ただ腹の上にある晴矢の髪を指先で絡めて遊んでいるだけで。

「夏だっつのに暑苦しいんだけど、」

呟きながら、畳に手をついてよっこらせと体を起き上がらせる。私は一度寝転がってしまったが故に、体にかかる重力を地球に預けていたい気分だったのでそのまま。


立ち上がった晴矢が、仰向けに寝転んだ私の顔の近くに来てしゃがみ、こそばゆい眼差しを向けて見下ろした。

「…なんだ晴矢、その気持ち悪い眼差しは」
「気持ち悪いはひどくない…?」

私の言葉に気を落としたらしいが、そんな事は関係ない。

「で、…なんだ?」
「お前暑さに弱いんだっけか?」
「しょうがないだろう、君と違って私は繊細なのだ」
「冬はピンピンしてるくせにな…」

少し呆れた様にささめかれた。
私は気怠い体をゆっくり起き上がらせる。不安定な体制でしゃがみ込んでいる晴矢に、半ば押し倒し状態で抱き着いた。正確に言えば、胸の辺りに飛び込んだ、のだ。
その勢いに耐え切れる筈もなく、呆気ない様子で勢いよく畳に背中をついて私を受け止める晴矢。

晴矢の上、胸に顔を埋めたらいつもより少し速い心臓の脈打つ音がよく聞こえた。
そのまま晴矢の首元まで近付いて両手を後ろに回す。


自分でも可笑しいと思っている。私が他人にこんな事をするなんて。
普段は、例え想い人同士であろうと私はつんけんした態度で彼と接している。だから喧嘩なんてしょっちゅう、日常茶飯事。

でも今は、すごく、甘えたい気分だ。
熱いのに、暑いのに。
でも、アツイからこそ、彼の気持ち良い体温に何故か触れたくなる。


これは熱のせい。これは暑さのせい。
これは、私の脳が熱に浮かされたせい。


「お前っ…んだよいきなり…!」

ほんのり赤みがかった頬の彼が不意に可愛かったと思ってしまったのも、きっと熱のせい。

「…すまんな、今は凄く甘えたい気分でな…」

そう小声で囁き答えれば、畳に投げ出されていた手が私の背中と額に回されて。その掌から伝わってくる体温が愛おしい。

「お前…熱あんじゃねーの?」
「…あると思う」

足も晴矢に絡めて、体全部をぴた、とくっつける。汗が薄く滲んでもお構いなし。


「知ってっか?夏風邪って馬鹿しかひかないらしいぜ?」
「君に馬鹿と言われたくない。私の場合は多分熱中症だ」
「嘘つけ」

ふっと鼻で笑われたけど別に気にならなかった。

「ねぇ、重いんだけど、」
「私の知った事か」


そのまま顔に近付き片手で後頭部の髪をそっと抱き、形の整ったその薄紅色の唇に自分のを重ねた。

二、三秒して離せば、髪色に負けないくらいの真っ赤な顔をした晴矢がそこにはいた。

唇を重ねたくなったのも、きっと熱のせい。



熱に浮かされて


(総ては熱のせい、だから…)

(今のうちに、甘えておこう)











end









*****

むくげさん、2万打フリリクありがとうございました。
リクエストは『晴矢に構ってほしくて甘える風介で、涼南っぽく』でしたが、ご期待に添えておりましたでしょうか…。

涼南目指して書いたつもりがどっちつかずの中途半田に…すみません(^-^;
風介は夏に弱くてしょっちゅう気怠い様子ですが、晴矢に甘えたのはこれが初めて、みたいな設定です。何でも熱のせいにする風介です。熱便利だね^^
晴矢は、普段風介がやってくれないような事したから顔赤くなってます。
何故書きづらい風介視点で書いたんだろう私←
何かございましたらお申し付け下さい、いつでも書き直し致します!
少しでも喜んでいただければこちらとしても嬉しい限りです。

リクエスト、本当にありがとうございました。

mukuge様のみお持ち帰り可。


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