dolce text | ナノ



この体温でも拭えるもの

グラレゼ(&基緑)祭 / No.6



深緑色の奥に憂えた闇を燈したその瞳が、ゆっくりと距離を縮めてきた。その艶めいた深い緑の双眸に吸い込まれてしまうかのように反らせない視線。後頭部にそっと手を回されてぐっと近づけられる。
まるで身体を動かす糸を切られてしまったマリオネットの様に、彼に見詰められた自分は抵抗する術を知らない。

そのまま柔らかく微熱を帯びているその熟れた美しい唇を重ねられ、最初は触れるだけ、そして何度もその接吻を繰り返して行くうちにどんどん深いものへと変わって行った。
歯列をまさぐる舌の感触が何故か心地よく、受け入れればねっとりと咥内を乱された。

ひとしきりしてそっと唇が離れると、自分と彼との間にできた細い糸筋。それを何気なくぺろりと舐めとる彼は妖艶で、思わず目を奪われてしまう。


普段こんな事をされない為、彼のこの行為に何の意味があるかが理解できなかった。


「…グラン様…どうして、」
「嫌だった?」
「め、滅相もございません…」


ただ、戸惑うばかりだ。部屋を訪ねられてからのいきなりの口付け。
どうしていきなりこんなにも優しいキスを、

自分なんかに。


すると、今度はいきなり背中に回され少し力を込めた腕にぎゅうっと抱かれた。突然近づいた距離、鼻先に酷く懐かしい彼の優しく甘い匂いが薫ずる。

それだけで安心してしまう自分は、あぁまだ、過去を引きずっているのだ。

それにしても、今日の彼はいつもの比にならないくらい優しい。優しくされすぎて思わず背筋がぞっとしてしまうくらいに。


そんな事を考えていると、いきなり首筋に埋められた顔から聞き逃してしまいそうな吐息が聞こえて。
目の前でふるふると小刻みに震える肩。鎖骨辺りに熱を含んだ雫がぽたぽたと流れてくるのを感じて、驚きつつもやっと理解した。


恐る恐るその震える背中にそっと手を回して、今自分がされているように彼をぎゅっと抱きしめる。


事情はよく解らない。
でも彼にもまだ涙は残っていた。

昔の面影さえ伺えなかった彼にはもう心のダムなど涸れ果ててしまってないものかと思っていたから。


彼も、人間だったのだ。



昔、まだ皆が優しくて仲良しで笑い合っていた頃、泣いていた自分をこうして抱きしめ慰めてくれたのは、紛れも無く目の前で静かに涙を零す、彼。

今は宇宙人なんかになりきって皆から恐れられていたって、結局は自分と同じ『ただの少年』なのだ。


なんと言葉を掛けたらよいか、だなんて思わない。

ただ彼が気が済むまで、宇宙人役が疲れてしまった彼が泣き止むまで、自分は傍に居てあげるだけでいい。


ユニフォームが濡れるのも厭わずに、抱き着かれた俺は彼の腕の中でそっと念じた。






この体温でも拭えるもの



どうかあなたの涙が、不安が、恐怖が
この自分に少しでも拭えますように。











end