dolce text | ナノ



崩壊の音がした

グラレゼ(&基緑)祭 / No.2



*シリアスでグラ→レゼ
*グランがヒロトっぽい
*レーゼ出てこない

















樹海の奥深くに基地を構えるここは、父さんの夢であり希望である復讐と、汚い大人たちの企みと、そして親の愛を知らない俺たちの存在意義と、全部を詰め込んだ組織だった。

俺は自ら率先してそれに組み込まれる事を決めたというのに、毎晩床についてから脳内に浮かび上がるのは、ひたすら胸の痛さを伴った“後悔”という言葉の似つかわしい感情だった。




もう何度も出入りしたここは、無機質な壁で覆われた窓ひとつ無い暗くて冷たい部屋。そこに聳えるのは脚の長い三つの椅子。腰を下ろした俺を、そして向かい合って座る彼らを、そこだけ鮮明に照らし出す照明。
二人が胸の中央部に装着している、照明の光を反射させて禍々しく妖艶に光るあの紫の石が、酷く気味悪い。

「レーゼは無事に奇襲を成功させたようだな」
「ったりめーだろ、初っ端からしくってもらっちゃ困るっつーの」

俺達の目の前に映し出された大画面のスクリーンを眺めながら、酷く冷たい瞳のガゼルとバーンはそう零した。
そしてスクリーンに映し出されているのは、かつては笑顔の絶えない無邪気であったレーゼ。彼はただ無表情で、チームを引き連れて次々と中学校の校舎の破壊活動をこなして行く。


命令を下したのは紛れもなく、この口だった。


「敵の奴らも大した事ねーなぁ…」
「あぁ、この調子だとマスターランクである私達の出番もなさそうだ」

一人は後頭部で両手を組んで至極だるそうに、もう一人はいつものように両腕を組んですましたように、彼らはまたぽつりぽつりと言葉を放つ。





俺一人でよかったのに。
父さんはみんなに石を持たせて、みんなを争わせた。そして、皆はどんどん光を失っていった。

目の前に居るこの二人バーンもガゼルも、デザームも、そしてあの子までも、この計画に組み込まれてしまった。

その胸にあの紫の石を嵌めたあの日から、笑顔が、会話が、感情が、瞳に宿した光が、日々失われていくのに気づいた。その頃には、皆の心は荒み枯れて朽ちてしまっていた。

計画の主幹に組み込まれあの紫の石を持たされなかった俺は、あんなに優しかった皆がエイリア石のせいでぎすぎすと音を立てて自尊心を擦り合わせる姿を見て、どれだけの痛みに苛まれた事か。俺の痛みなんかに比べたら、みんなの痛みなんてきっと想像を絶するものだっただろうけれど。

だが人間とはよくできているもので。
やがてそれに適応するかのように、俺は痛みを感じなくなった。崩壊の音も立てずに、いつの間にか入っていたいくつもの小さなひびが俺の中のそれを崩壊させた。

ただひとつだけ、崩壊したそれに突っかかる何かがあった。



「レーゼはよくやってくれたよ」

画面に映し出された映像のきみは薄ら笑いを携えて、そう、とてもよく俺の命令通りに任務をこなしていた。

「おい、グラン…マジかよ…」
「…じゃあ何で、きみは泣いているんだい?」


泣いている?

バーンの困惑じみた顔もガゼルの質問も、全く意味が理解できなかった。
俺が、心の壊れた俺が、泣いている?


グローブを嵌めたままの手で、自分の頬にそっと触れて見れば、そこには照明に照らされる液体の粒。


俺は、何故か泣いていた。


「何でだろうね、俺にも解らないや」







崩壊の音がした




(お前だけはこの計画に、)


どんなに俺が声を荒げてレーゼに伝えても、きっとエイリア石に侵された彼の心にはぴくりとも響かないだろう。


(関わって欲しくなかった)


心のどこかで計画の失敗を願っている自分を嗤って、“俺”は静かに深い眠りについた。




“俺”が再び目覚めた時は、全てが終わった時だった。












end