dolce text | ナノ
green with envy.
20000Hitフリリク / フリー
ふわり、彼の高い位置に纏め上げられた萌黄の髪の毛先が、視界の端を翻る。ふとそちらに目をやれば、こちらに向いているのは『13』の数字を背負った背中。 隣には、彼が昔から兄の様に慕い、憧れて止まない砂木沼の姿。彼は左に居る砂木沼を身長差分見上げながら、ふにゃりと笑顔を向けていた。
その横顔が、あまりにも楽しそうに微笑んでいたから。その口が、あまりにも嬉しそうに言葉を紡いでいるから。その頭が、あまりにも気持ちよさそうに撫でられていたから。
あぁ、なんて憎いんだろう。
思わず、そう呟いてしまった。
green with envy.
「でさー、砂木沼さんがそんな事言ったから…」
すっかり日も暮れた頃、練習を引き上げておひさま園の皆でぞろぞろと帰路へつく。俺の隣を歩く緑川は首に掛けたタオルで汗を拭いながら、どうやら俺にとってあまり気持ちのいい話題ではない事を楽しそうに話していた。
「砂木沼さんのお陰で、パスカットがうまくできるようになってさ、」
先程の光景を見てしまったからか、それとも今までほんの少しずつ積み重なってきたそれのせいか、自分で自分が分からなかった。
仮にも俺と緑川は恋人同士、のはず。
こんな事を気にかけるなんて俺らしくないと自身でも重々承知の上で、俺の一方的な押し付けになっていないかが、最近は本当に不安だった。
例えば、緑川はエイリア時代の俺の姿にまだ怯えているから俺との付き合いを了承した、とか。 それか、こんな俺に変な同情心を抱いて哀れんで付き合っている、とか。
彼を信じていないわけではない。 でも、信頼できるだけの“モノ”が足りなかった。 愛情表現、例えば手を繋ぐだとか抱きつくだとか、そういう事を一度も緑川がしてくれた事がまだない。
「それで、砂木沼さんがゴール前まで進んで、そのままシュートして…」
「ねぇ、緑川…」 「な、なに?」
「ちょっと…話があるんだ」
皆には先に帰ってもらう事にして、俺は緑川の右手首を掴んで、人気の少ない小さな公園へと連れて行った。その中でも一番端にあって人の目に付きにくいベンチを選んで、そこに腰を下ろす。
既に薄暗くなっていた辺りを街灯がピカッと一斉に灯り、照らしていた。
「で…ヒロト、話って何?」
純粋無垢の黒緑の瞳でまっすぐと見上げられて、そう尋ねられた。
「緑川と俺、付き合ってるよね?」
そうゆっくりと告げると、ぽっと顔を赤らめた緑川は俺から目線を逸らす。
「あ、当たり前だろ…!……何でいきなりそんなこと…」
「…今日、練習中に砂木沼と楽しそうにしているのを見かけてね。練習終わった後もお前が砂木沼の話ばかりしているから、ちょっと気になって。」
「…オレ、そんなに砂木沼さんの事言ってた…?」 「それはもう」
頭を抱えて座る緑川を見て、はぁ、と思わず小さく溜め息をつく。無意識下だったなんてもう分かりきってた事だけど。この時ばかりは、いつもは綺麗だと思える暗闇にぽつりと映えた一番星も目障りだと感じた。
そんな俺に、俯き加減でちらりちらりと視線を送ってくる隣の彼。
「あの、さ…ひとつ聞いていい?」 「何?緑川」
「…ヒロト、もしかして砂木沼さんに嫉妬して、る?」
あぁ、そうか… このもやもやとした行き場のない怒り、俺、嫉妬してたんだ。まるでそう、お気に入りのモノを取られてしまった子供のような、あの空虚な気持ち。
「うん、嫉妬してる、すごく」
あんなに楽しそうな笑顔を俺以外の人に向けてるのが癪に障る。あんなに嬉しそうに話しているのが俺に向けられたものでないのが腹立たしい。あんなに仲良くしている対象が俺じゃないのが虚しい。
大夢と仲良くしているのも、晴矢と口喧嘩しながら笑い合ってるのも、風介と二人で微笑ましくアイスを頬張っているのも、本当は俺が全部独り占めしたいくらいに。
でもそれを止めさせる事は、緑川が望まないから。
何だか、急に心に心地よい風が吹き抜けるかのように、もやもやとしたものが少しずつ消滅していく。 俺は頬を赤らめて相変わらず俯き加減の緑川の柔らかい左頬に右手を添え、目線を合わせる。
「ねぇ緑川、知ってる?
嫉妬すると人の瞳は緑になるんだ」
耳許で低く囁いてそっと離れれば、驚きの形相でこちらに目を向ける彼。
なんてね、と微笑んでゆっくりと離れようとした刹那、こちらに身を引き寄せた彼の唇が俺の頬に、
触れ、た。
「オレだって…ヒロトが好きなんだからな…!」
すぐ離れてそっぽを向いた彼の耳が、とても赤くて。 可愛い…すごく、可愛い。
その気持ちが溢れた俺はそのまま緑川の身体に思いっきり飛び込んで抱きついた。
end
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2万打フリリクありがとうございました お名前記載がないためにフリーです。リクエストは『緑川が大好きで砂木沼に嫉妬しちゃうヒロト』でした。
まず、大変お待たせしてしまった事をお詫び申し上げます。すみませんでした。そして、今回余裕のないヒロトをご所望されていたらしいので頑張って執筆してみましたが…何だか不発に終わってしまった気配がします…すみません><
「緑の瞳」ですが、英語での例えからネタ頂きました。「怒って顔を真っ赤にする」と日本語でもよく言いますが、それを英語で言うと「red with anger」と表現するらしいです。 このように英語でも色を使って例えるものは他にもあり、その中の「green with envy」(嫉妬で瞳が緑になった)という表現がこの文の元ネタです。 授業で習った時に、咄嗟に緑の瞳で思い浮かんだのがヒロトで、これは使えるとネタに頂きました(多少の解釈の違いがあると思いますがどうか見逃して下さい)
分かりづらくてすみません(;^ω^) リクエスト、本当にありがとうございました。
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