dolce text | ナノ



そのコンプレックス、
ください


20000Hitフリリク / 眞依様へ



*緑川が女の子→名前はリュウ















悔しかった。負けたくなかった。

だから私は、皆が練習を終えて合宿所へと戻って行った後に、グラウンドに残って一人練習を続けていた。
夜、皆がベッドで寝息を立て始め、静寂に包まれた暗い合宿所を抜け出して、一人で走り込みに行っていた。

無茶している、なんて事はとっくに自覚していた。
それでも、レギュラーから外れたくなくて、皆に取り残されたくなくて、皆に追いつきたくて、私はその無茶な特訓を続けた。



気がつくと、目の前には無機質な真っ白い天井があった。嗅ぎ慣れない消毒の匂いが鼻を薫ずる。
明るい。今は日中なのだろう。病室に寝かされていた私は、視界に入った窓の外の、まるでそこだけゆっくりと時が流れているような青い空を眺めた。

ベッドからゆっくり上半身を起こした。体を動かすだけで倦怠感を感じる。私はいったい、どれくらいこの世から引き剥がされていたのだろう、と思うくらい。
薬品の匂いが染み込んだ清潔そうな掛け布団の上にある片腕には、点滴が施されていた。
傍らには、誰か座った形跡のある背もたれのない椅子がひとつ、出されている。


すると、病室のスライド式の扉が殆ど音を立てずに開いて、そこに花が刺さった花瓶を持った赤い髪の彼が入ってくる。
私が目を覚ました事に気づいて、普段あまり見られないような驚いた表情を向けて。

「あれ、リュウ…起きたの…?!」
「ヒロト…?」

喉からは、水分の不足したような掠れた声しか出なかった。それでも彼を喜ばすには充分だったらしい。
彼はその辺に適当に花瓶を置き、勢いよく近づいてきて、そして点滴に気を使いつつも思い切りぎゅうっと私の肩を抱く。

よかった、本当によかった、と
肩に下ろされた髪ごと首筋に顔を埋められて。震える声で呟く彼の力のこもった腕に、ただ私は身を委ねるしかなかった。



しばらくして、ゆっくりとその腕が解かれる。今度は肩に手を置かれて、その緑に見据えられた。

「どれだけ心配したと思ってるんだい?みんな、姉さんも砂木沼も、円堂君や風丸くんやイナズマジャパンの皆だって、リュウの事すごく心配してたんだよ」

先程彼が持ってた花瓶に刺さった花束は、イナズマジャパンの皆から贈られて来たものらしい。
添えてあった手紙をはい、と差し出されてそれを読めば、ひとり一筆、応援や心配の寄せ書きがされていた。


そうか、私…、と意識を手放す前の記憶を思い出す。

星が瞬く夜の河川敷で一人、いつものように合宿所をこっそり抜け出して走り込みをしていたんだ。自分の限界を超えようと無茶して走ったら、急に息ができずに苦しくなって…それから…

「たまたま通りかかった人が、親切に救急車を呼んでくれたから助かったんだよ」

過呼吸で倒れた私は、意識を失ったまま丸三日、ベッドに横たわっていたという。



時計は昼の二時半過ぎを指していた。窓から差し込む光は、今の私には眩しいくらいだった。
絶対安静、と彼にベッドに寝かしつけられる。そんな彼はベッドの傍らにおいてあった椅子に腰を下ろして、天井を向いて話す私に耳を傾けてくれた。

「強く、なりたかった」
「うん」
「女だからって、皆に体力で負けたくなかった」
「うん、知ってる。リュウが負けず嫌いなのも、人一倍頑張ってるのも、知ってる」

「ヒロト、」

彼の方を見やれば、窓を背景にした彼は逆光で赤い色素が煌びやかに映える。


「どうして、私は…『女』なの?」

例えば私が男だったら、体力で男女の差を見せ付けられる事なんてないし、控えめに膨らんでいるくせに邪魔なこの胸だってない。対等に皆とサッカーができで、対等に世界への挑戦権が与えられるのだ。
だから私は、無理をして性別を誤魔化してまでイナズマジャパンに食い込んだ。でもきっと、この一件で恐らく監督は真実を知ってしまうだろう。あるいは以前から、それともそう遠くない未来の話だとしても。

近づけられた瞳に、慈悲にも慈愛にも取れる眼差しを向けられていた。

「…俺は、リュウが女の子でよかったと思ってる」
「でも私は、嫌だ」

女だからサッカーができないわけじゃない、でも、どうしても男女の「差別」はなくても「区別」はあるのだ。
悔しい。
性別に劣等感を感じる自分も、性別のせいにする自分も、そしてそれ自身も、全部嫌いだった。

そんな私のやるせないような表情を覗き込むと、ヒロトは口端を上げて妖艶な薄い笑みを浮かべた。




「じゃあ俺が、リュウが女の子でよかったと思えるようにしてあげるから」






そのコンプレックス、ください


(君が感じている劣等感を、俺は幸せに変えてあげたいんだ)



その意味が全く理解できずに頭をひねっていると、ふっと噴き出した彼。
そのうち解るよと前髪に触れられて額を露にし、そこにキスを落とされた。
急にされたものだから私の顔の熱が急上昇、思わず布団で顔まで潜らせる。



よくわからないけれど、まずは体調整えて、一日でも早く練習に復帰する事だけを考えて。



そして、彼に打ち明けた事で心が軽さを取り戻したというのは、


私だけの秘密。













end










*****

眞依様、2万打フリリクありがとうございました。
リクエストは『基緑♀+イナジャパで、リュウジが力不足に悩み、河川敷で一人で練習、突然過呼吸になって倒れて…』という事でしたが、ご期待に添えておりますでしょうか?

まず、大変お待たせしてしまった事をお詫び申し上げます。すみませんでした。
そして、リクエスト通りでないというまさかの失態…イナジャパメンバーを入れようと試みてだらだら文章が続いてしまい、皆から寄せ書きと花束届いてる辺りを盛り込んでみたものの、ちょっと無理がありました…。こんなものですみません…!…ご期待に添えているか本当に心配です…。

ちなみにこの二人、くっついてない設定。基→(←)緑くらいで、リュウは無自覚だけど確実に傾いてます。精神的に脆くなっているリュウを励ますヒロトでした。
ヒロトは本来イナジャパの練習に出ているはずですが、練習に集中できずリュウちゃんが目覚めるまでつきっきりです。そしてリュウちゃんの胸は発展途上なのでA!←
説明しないとわからない文章ですみません…。もしもっとこうして欲しい!みたいなのがございましたらお気軽にお伝え下さい!できる限りお答え致します。


リクエスト、本当にありがとうございました。

眞依様のみお持ち帰り可。


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