dolce text | ナノ
見守るだけじゃもどかしくて
20000Hitフリリク / 昴様へ
既に日が沈んで辺りは薄暗く、合宿所から洩れる光がほんの僅かだがとても明るく感じる。頭上には光輝く点の様な星が散り散りに瞬き始めていた。
その空の下で、息を乱して地面に片膝をつけている緑川と、その前に立って彼を見下ろす俺。
「焦って無茶したって、体壊すだけだよ」
突き刺すような俺の声音が、虫や風の音しか聞こえない静寂なグラウンドに無駄に響く。
「っ…俺は、皆について行けない方が嫌だ…」 顔を引き攣らせ俯き、小さく呟く緑川。
「ほら、『急ばが回れ』って諺でも言うで…」 「ヒロトは…!」
俺の声しか聞こえないような日暮れの静かな空に緑川が突然遮って荒々しく声を上げ、続ける。
「ヒロトは、……ジェネシスだったヒロトなら、そういう不安はないんだろうけど……セカンドランクだった俺は、皆のレベルについて行くのがやっとなんだよ…」 何度やっても、いくら練習しても、皆がどんどん上達していくのが分かる。目に見えてその差が開いていくのがわかる。だからこうやって無茶をしてまで練習しないと、いつ蹴落とされるかわからない、と。
不安定に震えた声で放たれた言葉は、あまりにも弱々しく説得力に欠けるものだった。
「…セカンドランクとかジェネシスとか、いつまで過去の話を引きずるつもりだい?今は関係ない。だいたい無茶して体を壊すような事になったら…」 「聞きたくないっ…!」
静かに説得の言葉を並べても、またもその声に遮られる。
こうなってしまうと緑川は少し厄介だ。頑として主張を譲ってくれない。 緑川が何でも一人で抱え込んで一人で解決の術を見つけようとするその性格は昔からだった。空回りが得意な、少し頑固者の頑張り屋。
「俺の事なんか…放っておけよ!」
そこが彼の可愛い所でもあるから余計に放っておけない。つい、気にかけてしまう。
「放って置けばまた無茶をするだろ」 「俺が無茶しようが体壊そうが、ヒロトには関係ない!」
あぁ、どうして伝わらないんだろう。 言葉で気持ちを伝えるなんて簡単な事だと思っていた。表面だけをなぞった陳腐な言葉が、いかに安っぽいかを思い知らされる。
俺はただ、お前とサッカーがしたいだけなのに。
「いい加減にしなよ、緑川。今まで一人でサッカーしてきたなんて考えてる訳?俺はお前と、緑川と、一緒に世界に行きたいんだ」
潤みを帯びている瞳に向かって、俺は高ぶった感情を少し抑えてゆっくり優しく、その夜の静寂に語りかける。
「いつまで体が持つか分からないような無茶ばかりしてるお前を、放っておくことなんかできない」
瞬きをした瞬間にその艶かしい黒い瞳から、一粒の雫がぽたりと落ちて地面を濡らした。
「俺と楽しいサッカー…しようよ」
ね、と視線を合わせるようにしゃがみ、笑顔を向けてその頬に伝う一筋の雫に拭うように触れる。体温を孕んだその雫は、まるで純粋無垢な彼のように月明かりに照らし出されて美しい。
「…ごめん、なさい」
不意にぽつりと呟かれた謝罪の言葉は、夜の静けさに掻き消されてしまいそうなほど小声で、思わず綻ぶ俺の口許。
「謝られるより、ありがとうって言われた方がいいな、俺は」
囁けば、まだ潤んだ瞳のまま俯いていた顔をあげて、表情は明るさを取り戻してゆく。 そして、漸く取り戻した穏やかな笑顔で、ゆっくり唇を動かした。
見守るだけじゃもどかしくて
(だからと言って、俺は手を差し延べるくらいしかできないけれど)
end
*****
昴さま、2万打フリリクありがとうございました。 リクエストは『力不足で悩むリュウジとそれを励ますヒロトでシリアスっぽく』でしたが、ご期待に添えておりますかね…?
まず、大変お待たせしてしまった事をお詫び申し上げます。すみませんでした。 そしてシリアスというリクエスト頂いたのに、最後が微妙にハッピーエンドになりました…。リクエスト通りに行かないことに定評のある私です(←)…すみません>< リュウジはもっとヒロトを頼ればいいと思います。表面では笑顔を作って明るく振舞ってるけれど裏側では一人で抱え込んでいて、そんな姿にヒロトだけが気づいて言い争いをしてまでも人に甘える事を覚えさせる。そんな二人が微笑ましいです。素敵なリクエスト、ありがとうございました。 何かご不満などございましたらお申し付け下さい。できうる限りの書き直しを致します!少しでも喜んでいただければこちらとしても嬉しい限りです。
リクエスト、本当にありがとうございました。
昴様のみお持ち帰り可。
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