dolce text | ナノ



さよなら、愛した人

20000Hitフリリク / きおり様へ



全ての柵から解放されたらどんなに楽だろう。きっとそこは、自由しかないとても楽しい世界。でもそれと紙一重に、とても儚く不安定な世界。
柵できつきつになったこの体も精神も脳内も魂も存在も、壊れてしまいそうに亀裂が入っているのを自分でも感じた。だから、どんなモノにも縛られない事に憧れを抱いた。


「敗者は、いらない」

あぁ、これで自分は、何にも縛られる事はないのだ。もう宇宙人なんかやらなくて済むし、誰の言う事も聞かなくていい。愛する人の、あの冷酷で寂しそうな痛々しい瞳も今が最後、今後もう見る事はないのだろうし、酷く変わってしまわれたあの方の姿ももう目にかかる事など二度とないだろう。

「言い残す事はないかい?」

そう言って微笑む表情さえ見ていて辛い。だってあなた、心から笑っていない。



思い出されるのは、記憶の片隅にある以前の優しい彼の姿。

まだ幼い頃、気付けばいつも一緒に居て、俺が笑えば彼も笑い、泣き虫だった俺が泣けば黙って手を繋ぎ泣き止むまで隣に居てくれた。

あの魔法の石が墜ちてくる少し前の事、突然抱きしめられて好きだと言われた。
性別は関係ない、だから一緒に居させて、と。
その微笑みが一生忘れられないくらいに妖艶で美しく、思わず見蕩れた。その笑顔に負けて了承すれば、甘いキスを額や頬や目尻、そして唇に降らせてきてたまらなく恥ずかしい思いをした。でもその時、とても幸せな気分で心が満たされた。



目の前で微笑む彼は、もうあの時の彼ではない。
あなたは何処へ行ってしまった?
そんな事を問うなんて馬鹿な事はしない。だってこの方が知る筈がないのだから。

変わってしまったのは、お父様が持ち込んだあの魔法の紫の石のせい。そのせいで彼は『グラン』という柵に捕われてしまった。たった三文字の訳の分からない片仮名が、俺の愛する人をどっかに追い出してしまった。

出来ればもう一度だけ、彼からの甘美で優しいキスと抱擁が欲しかった。でもそれも、叶わぬ願い。

「愛しています、グラン様」

これでやっと『レーゼ』という柵から解放される。もう総てを捨てて自由の身になれる。

「俺もだよ、レーゼ」

寒気がするほど鋭いその不敵な微笑みは、背筋が凍る程冷たかった。


自分の胸に装備されている紫の石に、白い手袋を嵌めたその手が伸びる。
エイリア石、それは無理に身体能力を増幅させるもの。当然副作用がある。特に、無理に外せば記憶喪失が高確率で懸念される。

でも、それは「敗者」に成り下がった者への罰。


「さよなら、レーゼ」

つまり、昔の記憶の中にある幸せな二人のひとときも忘れるという事。
でもそれは、以前の彼の面影を思い出さずに済む。求めずに済む。思い出に捕われる事なく、何もかも自由の身になる。



さよなら、愛した人。


(例え記憶を亡くしても、)











end









*****

きおちゃん、2万打フリリクありがとうございました。
リクエストは『緑川受けでCP希望特になし、シリアスで、暗く切なく甘いもの』でしたが、ご期待に添えたのでしょうか…。

私の書きやすいもの、ということでさらさらっと書き上げてしまいました。暗くて切ないものはやはりグラレゼにつきます^^
名前が柵(しがらみ)になってしまって痛々しい姿のヒロトに悲しむレーゼです。うまく伝わっていれば良いのですが…何かございましたらお申し付け下さい、書き直し致します!いつも甘いの書いててシリアスというものがなかなか書けないので…。
少しでも喜んでいただければこちらとしても嬉しい限りです。

リクエスト、本当にありがとうございました。

きおり様のみお持ち帰り可。


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