dolce text | ナノ



惚気より食い気

20000Hitフリリク / 鈴音様へ



『惚気より食い気』とはよく言ったものだ、と、その言葉を紡いだ昔のどこかの誰かに思わず感服してしまいそうな気持ちになったのは、愛しい彼の行動に思わず溜め息を漏らしたある日の事である。

それは育ち盛りの中学男児、第一に睡眠欲、第二に食欲であるのは当然な事で、それが満たされて初めて出て来るのが三大欲求の三番目に当たる性的欲求だ。だからしょうがないといえばしょうがないけれど…。



「約束すっぽかされた身にもなって欲しいな…」

『約束』とは、緑川から本屋に行くのに一緒に行って欲しいと頼まれていた事。
今日はもともと練習が早く終わる予定で、せっかくの俺達の関係の事もあって本屋のみとは言わずに練習で空いたお腹を満たす事を兼ねてのデートプランを脳内で考えていた。
だが、待ち合わせ時間になっても、それから三十分を過ぎても、全く姿を現さない緑川を待ち兼ねて合宿所内を探し回れば、この通り。

「…だってハラ減ってて…」

食欲旺盛な緑川はといえば、食堂でおやつとも早めの夜ご飯とも言い難い時間に軽い食事をしていた。彼いわく、「腹が減って約束をすっかり忘れていた」との事。

「ほ、ほら『腹が減っては軍は出来ぬ』って言うしさ…」

そう苦笑いをしながら言う所を伺うと、どうやら一応、約束をすっぽかした事は悪く思ってるらしい…、けど…。


「俺、楽しみにしてたのになぁ…」

ぼそりと彼に聞こえるように呟いて目線をやれば、どきりと一瞬固まる彼の行動。

「わざわざ私服に着替えてまで待ってたのに…緑川の事」

わざと溜め息混じりに言えば、瞳にうるうると涙を溜めてこちらを見上げる彼。そんな彼の手には相変わらず箸が綺麗に握られている。

(ホントは、食べ物にまで嫉妬したくないんだけど…)

ふとそう思って、つい鋭い視線を送ってしまい、それにびくりと体を少し戦慄かせる緑川。

「ご、ごめん…ヒロト」

しゅん、と急にしょげ返ってそう口にした彼は、既にもう殆ど空の食器が乗っているトレイに箸を置いて席を立ち上がる。

「俺、今から着替えて来るからっ」

そう言って食堂を出ていこうとする彼の右手首を掴み、そして彼の部屋ではなく自室の方へと足を進める。

予定変更、デートよりも今日は自分が楽しむ事を優先してしまおう。

そんな俺に手を掴まれたまま連れて来られている彼は、疑問を顔に出しつつもちょこちょことついてくる。



そして自室に彼を半ば無理矢理通して自分も中に入り、ドアを背中でぱたりと閉める。
後ろに回した手でがちゃり、と鍵をかける音が静かな部屋に響いて、状況がいまいち理解できないらしかった緑川もその音でぴくりと体を震わせた。

「…ヒロト…?」

「デートはまた今度」

そう言って彼に歩み寄る。

「俺、今腹減ってるんだよね、緑川」

にっこりと微笑んで向ければ、さらに戸惑う彼の表情。近付くたびに後退りする彼の背後は、既に壁。

「ハラ減ってんなら、食堂で…」

「ふふっ…いただきます」

そう囁いて、壁と俺とに挟まった彼を壁に縫い付け、そして顎にそっと手を添え、その桜色に近い色素に染まった綺麗な唇に、吸い付く。舌先でなぞって怖ず怖ずと開いたその隙間から舌を挿入。咥内を貪れば、感じるのは二人の唾液と篭った熱と、それから先程彼が口にしていたほのかな食事のテイスト。

唇をそっと離せば、乱れた息とほんのり赤く染まった頬がなんとも恍惚で。

「…ヒロトの…ばか…!」

唇だけでへたり込んだ彼をひょいと持ち上げて、ベッドに座らせた。その隣に腰を下ろして、目先五センチの所で見つめる。

「まだまだこれからだよ」

そう言ってゆっくり体をベッドに預けるように促した。



惚気より食い気

(そんな君に惚れてしまったが故に、)











end









*****

鈴音様、2万打フリリクありがとうございました。
リクエストは『食べ物に嫉妬するヒロト』でしたが、ご期待に添えたのでしょうか…。

まず、大変お待たせしてしまった事をお詫び申し上げます。すみませんでした。
「最後はキス」というシュチュエーションのリクでしたが、いつの間にやら押し倒しまでいってました。全くヒロトったら←
食べ盛りな緑川、可愛いです。書いててとても楽しいリクエストでした。ありがとうございます^^
何かご不満などございましたらお申し付け下さい、できうる限りの書き直しを致します!少しでも喜んでいただければこちらとしても嬉しい限りです。

リクエスト、本当にありがとうございました。

鈴音様のみお持ち帰り可。


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