dolce text | ナノ



君に、心酔

20000Hitフリリク / のえる様へ



少し日に焼けた健康的な肌色、その肌色に上気の色をふんわりと乗せた柔らかい頬、みずみずしくて吸い付きたくなるような赤みを帯びた唇、普通より小さめに通った鼻筋、黒が印象的な大きくはないが愛らしい瞳、光を浴びて若草色に艶めく少し癖のある髪、自分より少し低い位置にある目線、いちいち俺を楽しませるころころと変わる表情や仕種、行動。
好きな所をあげれば、それはもうきりがない。だからといって『全部』の一言で片付けてしまうのが勿体ないくらい、俺は大好きだ。

俺は練習がオフな今日、そんな緑川を誘って所謂デートをしていた。
デートといっても、世間一般的には単なる「仲のいい男子中学生」としか見られないのだけれど。そもそも緑川にそんな意識があるかよく解らない。

「ふぅ…面白かったー」

でも、両手を上に伸ばしてそう笑顔を向けて言われれば、彼にそんな意識があるとかないとかなんて、どうでもよくなってしまう。

「ふふっ、よかったね」

そう言って微笑み返せば、きょとんと驚いたような顔をして尋ねてくる。

「ヒロトは面白くなかった?」
「もちろん、面白かったよ」

映画に夢中になっている君を隣で見ているのが、だけどね、と聞こえないくらいにそっと呟いた。



特に行く宛てもなく街をふらふらと歩いていると、突然、腕を掴まれ引かれる感覚がした。

「ヒロト、あれあれ!」

そう言って緑川が指差したのは、あまり行った事のないゲームセンター。

「ゲーセン?行くの?」
「だって俺、行った事ないからさ!」

行こう、と目を輝かせて言う緑川に思わず頬がふっと緩んだ。早く早くと急かされ、引っ張られながら一、二歩後をついて行く。



中は沢山の音で乱れていて、耳を塞ぎたくなるくらい煩い。そして人もそれなりに多く賑わっていた。
その中を、初めて来たという緑川は興味本位でどんどん突き進んでいく。
決していい所ではないから、なるべくなら逸れないように一緒に行って欲しいのだが、煩い音のせいで声が全く届かない。
そして彼を遂に見失いかけた。
まだ幼さの残る綺麗な顔立ちの緑川は、加えて長い髪の為に女の子に間違えられる事がないこともない。もし店内に柄の悪い人が居たら…とつい良くない不安が脳をよぎる。
それを掻き消し、彼の背中が見えなくなった辺りを見渡せば、…見つけた。

あるひとつのUFOキャッチャーの前でじっと中のぬいぐるみを見つめる、その背中。

「何をそんなに見ているんだい?」

そっと後ろから声をかければ、とても大きなぬいぐるみをじぃっと眺めながら、ゆっくり口を開いた。

「…このぬいぐるみ…はっきりとは覚えてないんだけど…覚えてる…」

「覚えてる…?」

何故か淋しそうに呟いた緑川に尋ねれば、いつだったかは解らないがこのUFOキャッチャーの中のぬいぐるみのもっと小さい物と同じものを持っていた時がある、と。

「懐かしい…」

ふっと微笑んでそのぬいぐるみに向けた眼差しは、何だか俺の心臓をどきりとさせる。

「ねぇ、ヒロト、」

名前を呼ばれてこちらを見る緑川は、きっと無意識に上目使い。

「俺、このぬいぐるみ…取って欲しい、な…」


「うん…じゃあ、頑張ろうかな」

UFOキャッチャーはあまりやったことないけれど、彼の頼みとあらば断る訳には行かない。
自分で言うのも何だけれどこれでも俺は器用な方で、何事も二、三度経験すれば身につく。とても大きなものだから取れるか心配だったが、案の定そのぬいぐるみも三回目にして取れてしまった。

下の取り出し口からそのぬいぐるみを取り出して、はい、と渡す。
「デートの記念に、ね」
微笑んで手渡せば大事そうに腕に抱えて、上気の色に染まるその可愛らしい頬。

「で、デート…って…!」
「違うの?」
「ち、違…くないけど…」
尻窄まりに小さくなっていく声。そっと頭に手を乗せて撫でれば、ますます赤くなる顔。

「でも、ありがとう…」

恥ずかしそうに俯きつつ周りの音に掻き消されてしまいそうな声でお礼を告げてくれた緑川の、これ以上の愛らしさといったらなかった。



君に、心酔


(巨大なぬいぐるみを抱えて嬉しそうに笑顔を浮かべる君に、どうやら心酔してしまったようだ)











end









*****

のえる様、2万打フリリクありがとうございました。
リクエストは『UFOキャッチャーの巨大ぬいぐるみをねだるリュウジ』でしたがご期待に添えたでしょうか…?

デート設定にさせて頂きました。デート記念に巨大ぬいぐるみを取ってあげるヒロトってかっこいいな、と思いまして。それからサッカー男児はゲーセンに殆ど行かないと言うのは勝手に私が思っているだけです。でも、リュウジは可愛いから絡まれそう。
スランプに落ちかけていたので、お話にまとまりがあまりないかな…なんて反省しているのですが…どうでしょうか?もしお気に召さなければ、その旨をお伝え頂ければ書き直し致しますので!

リクエスト、本当にありがとうございました。

のえる様のみお持ち帰り可。


menu