dolce text | ナノ



チューベット



ぱきん、

音を立てて、冷凍庫から取り出したばかりでとても冷たいピンクのチューベットを両手で握り、二つに割った。
今回は成功。ビニールの容器が変に片側にくっついてしまうことなくしっかり真ん中で割れたそれを、期待の目を向けて立っている緑川に、はい、と差し出す。
ありがとう、と満面の笑みで差し出したチューベットの片割れを受け取り、それを咥える。

「ピンクだから苺味…」

そう言って、冷たくてずっと持っていられないらしく、それの下の方にティッシュを巻き付け、冷たさを緩和させて彼は再びチューベットを咥えた。

「なんか、…」

そんな彼の可愛い姿を眺めて思わず零れそうになった言葉を飲み込む。と、自分の手にあるもう片割れのチューベットが早くも溶けだしている事に気付いて、慌てて口をつける。既に周りの空気中の水分でうっすら水滴をつけ、それによって手が濡れていた。ティッシュを巻き付ける事は、冷たさ緩和だけでなく水滴で手が濡れるのを防止する効果があるのか、なんて思いつつ、溶けかけたチューベットを口に流し込む。
チューベットを食べるのは久しぶりだった。昔はお日さま園の皆で、何色がいいって主張して半分に分けてもらったチューベットを食べていた。特に暑い日なんかはおやつに食べるのを楽しみにしていた。
自分は、流石にそこまでおいしいと年齢と共に感じなくなってしまったが、目の前の彼はとても嬉しそうに舐めずる。

「おいしい?」

そう尋ねれば、チューベットに向いていた緑川の意識がこちらに向いた。そして残り少ないそれを一旦口から離し、笑顔で言う。

「うん、…だって」

勿体振ったようにまたそれを口に咥えて全てを流し込む。ビニールの容器は殻になって彼の手に収まった。

「ヒロトと半分こ、したから…」


俺、結構耐えた方だと自分でも思うんだ。だってあんなに可愛くチューベットを咥える緑川を前にして平常心保てていたんだから。
でも、そんな理性を保っているぎりぎりの所でそんな事言われたら、保てる理性も保てなくなってしまう。

「悪いのは、無自覚な緑川だからね、」


近付いてそう言い、容器を持った方の手首を掴んで引き寄せる。
そして柔らかな唇にキスひとつ、落とした。

チューベットで、冷たく甘い苺の味がする唇は、微かに熱を孕んでいた。











end









*****

2010年6月前半拍手文でした。
暑くなりだす頃にうちでは定番になります、チューベット。半分こってのがいい。イチゴ味はヒロト、メロン味はリュウジですよ^^


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