dolce text | ナノ
俺だけのお嫁さん
*ジューンブライドネタ *緑川が女の子(名前:リュウ)
『新婦の控室』と紙が貼ってある部屋の奥から、「入って来ていいわよ」と瞳子姉さんの声がする。俺は唾をごくんと飲み込んでドアノブにそっと手をかけ、それを捻ってゆっくり押し、待ちに待ったその姿をそっと覗き込む。
そこには、純白のドレスに身を包んで椅子に腰掛けた、それはそれは何にも例えられないくらい美しい姿のリュウがいた。
あまりの衝撃に俺は口を開けたまま立ちすくんでしまい、「ヒロト…?」と不安そうに名前を呼ばれてはっと我に返る。そして思わず緩んでしまう頬を向けて、彼女にそっと近づいた。
「似合ってる…かな?」
気恥ずかしそうに俯き加減で言うリュウは、とても可愛いらしく俺の目に写っていて。
「すごい…綺麗だよ…似合ってる」
ふわふわとした真っ白なドレスは彼女の綺麗な身体のラインをうまく強調していて、その真っ白な衣装によく映えた薄暗いライムグリーンの髪は、ウエディングベールに覆われて艶めかしく背中で落ち着いている。 微笑んで、二の腕まである白いロンググローブに包まれた手をそっと取り、膝をついて布の上から軽くキスを落とす。ほんのり頬が赤く染まり、彼女はその行動に少し驚いたように目を見開いた。俺が膝をついたまま見上げれば目が合い、ゆっくりと微笑みを零す。
「ありがとう…すごく嬉しい」
ヒロトも似合ってるよと囁かれ、照れ臭そうに互いに見つめ合い、自然に顔を引き寄せて。 普段あまり飾らないリュウが今日はお化粧で綺麗にしてもらっていて、普段見せるあどけなく可愛い微笑みが、今日は身に纏う純白なドレスにとても美しく映える。 近付いて距離を縮めて、彼女は瞼をゆっくりと下ろした。
「おいおい、まだキスは早ぇんじゃねーの?」
少し茶化すような声に、咄嗟にこの部屋に居るのは俺達だけでない事を思い出した。声のした方を向けば、幼馴染みの晴矢がにやにやと気持ち悪い顔でこちらを眺めていた。その隣に溜め息をつきながらもこちらを伺う風介、微笑を浮かべて優しく見守ってくれている姉さんや父さんなど、つまりは俺達のこの一連の動作を、駆け付けてくれた皆に見られていた事になる。
とても近い距離にあるリュウを見れば、彼女も人が居た事を忘れていたらしく目をぱちくりとさせたあと、ふとこちらを伺った。 お互い目を合わせ、そして急に恥ずかしくなり、二人でかああ、と顔を赤くする。
「ふふ、キスは本番にお預け、だね」
楽しみにしてるよと額にちゅ、と触れ合うだけのキスを落とす。彼女ははにかんで美しくそっと微笑みを向けた。
そして全ての準備が整い、皆は控室からチャペルへと移動して、控室に残るのは俺とリュウと、そして父さんだけであった。
「父さん、俺達を育ててくれて、ありがとう」
父さんにそうお礼を言うと、年々皺が増えてきた優しい顔で俺達を眺める。
父さんがお日さま園を作ってくれなかったらなかっただろう出逢い。こんな事を思ったら本当はいけないんだろうけれど、今なら俺を育児放棄した本当の親にさえ感謝したい気分だ。
だって今、こんなにも俺は幸せだ。
「二人が幸せなら私は嬉しい限りだ、ヒロト、リュウ、」
その父さんの言葉を聞いた俺達はまた顔を見合わせて、そして自然に微笑んだ。
「父さん、俺達は今とても幸せだよ」
その言葉に黙って何度もうんうん頷いた父さんは、俺達に優しい慈愛の視線を注いでくれた。
本番の時間は刻一刻と迫る。少し緊張気味のリュウの真珠の様な頬に触れて「大丈夫だよ」と優しく囁いた。うん、と首を縦に振って頷く彼女だったがやはり緊張は解れないようで、表情が少しずつ硬くなる。
「硬い表情してると、今日の美しいリュウが台なし」
目を細めて零れた笑みでそう放てば、赤らめた頬を少し膨らませて、恥ずかしい事言わないでよ、と囁かれた。そんな膨れっ面もやっぱり愛おしくて、その頬を優しく撫でて互いにまた見つめ合う。
「ねぇ、ヒロト」 「なんだい?」
「私、今凄く幸せ」 「俺も、幸せ」
そうしてまた笑顔を交わす。 今日はもう何度笑みを零した事だろうと思うくらい、本当に幸せだった。彼女の強張っていた表情も少し戻ったみたいで安堵した。
「じゃあ、先に行ってるから」 「うん…」
「また、教会の中で」
花嫁は父親に手を引かれての入場になる為、彼女にそう伝えて教会へと足を進める。
次、彼女と寄り添う時は、
俺とリュウが“番”になる時。
end
*****
結婚おめでとうございます!!うはぁなんて幸せな二人^///^ 今年のジューンブライド、綱立に続き第二弾でした。6月の花嫁大好きです。 基緑はお日さま園の皆から盛大に祝われているといいと思います。 南雲は茶化しているけど、実際自分の事になるとあたふたしてそうですよね。人前結婚式でもいいなと思ったのですが、やっぱりチャペルでの挙式が好きです。 知識が皆無な状態で簡単に調べつつ書いているだけなので、細かい諸々の事は目を瞑って下さると嬉しいです。
二人が、いつまでも幸せでありますように^///^
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