dolce text | ナノ
泣きたくなるような恋をしました。
いなくなってから気づくなんて。 何てべたなんだろうと思わず自嘲する。
グラウンドに長く伸びる目の前の影はひとつ、橙に染まって沈んでいた。 ついこの間までは隣にもうひとつ、自分より少し長い影が存在していたのに。
すぐ戻ってくるものだと勝手に思い込んでいた。すぐ戻ってきて、また雷門のトップをふたりで張れるものだと思っていた。 風の噂で『転校』という言葉を耳にしたとき、自分の感情なのに理解し難い虚無感を感じた。 走って、よく通っていた三年生のとあるクラスの教室をこっそり覗いたが、いつも机に向かってシャープペンシルを走らせているあの姿はどこにもいなかった。
メールはできなかった。電話なんて尚更だ。
あの時はたまたま職員室とかトイレとか移動教室とか、とにかくどこかへ行っていたから教室にいなかったんだと信じて、転校の噂の方は信じなかった。
でも今日の練習で、三国さんたち三年生がその事実を口にしたとき、現実を突きつけられてしまった。 気分を紛らわすために部活終わりのグラウンドに一人残ってボールを蹴ったが、気持ちが晴れることもなく、むしろファーストになってから今までの約一年間の記憶が思い出されるばかりで、そのことが頭を離れない。
橙に染まった世界にひとり、頬に何か冷たい感触が静かに伝う。
らしくない、泣くなんて。 こんなにも好きになっていたなんて。
泣きたくなるような恋をしました。
こんな感情、知らなきゃ苦しまなかっただろうに。 部活の先輩後輩でもなく、同じ学校でもない。もう関係なんて消えてなくなってしまった。背中を追いかけることも、ましてや隣に立つことも、もう叶う事のない望みなのだろう。
南沢さん、あなたは今でも、サッカー好きですか?
end
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南倉企画NO.1
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