dolce text | ナノ
埋まらない距離
あなたの背中が眩しくて。憧れだった。入部テストに受かって初めての練習試合、まだ二年生だと言うのに一軍の前線に立つその姿を初めて見た。 かっこよかった。
オレもあそこに立ちたい。 最初はサッカーをやることにそこまで熱を持つつもりはなかったが、そう思うようになった。 毎日頑張って努力して、そうしてやっと隣に立てた。嬉しかった。隣に立ってアイコンタクトで会話し、パスを出し合ってゴールを決める。こんなに楽しいと思ったことはなかった。
いつしかそれは、オレにとって至福となっていた。あなたが隣に居れば、例えフィフスセクターからの指示で勝敗が決まっていたサッカーでも、とても楽しいものだった。
なのに、あなたは自らそこから離れて行ってしまった。やっと隣に立ったと思ったのに、あなたはまた遠くへ行ってしまう。 こんなに頑張ったのに、あなたはオレの隣にはいなくて。何のために今まで頑張ってきたのか、見失った。
あなたの隣に居られることだけが幸せだったのに。
「どうして止めちゃうんすか」
黄色い生地に青で型取られた10の文字を見つめて、静かにオレは問う。
「内申はいいんですか、南沢さん」 「止めにきたのか?」
にやり、と笑みを浮かべてこちらを振り向いた茶の特徴的な瞳の奥は、いつも読めない。今日もそれはもちろんのことだ。
「いいえ」
身長差分、視線を少し上へと向ける。
「南沢さんがあれだけの大人数の前で辞めるって言ったのに、オレが止めて戻るとは思えません」 「そうだな。よくわかってんじゃん」
辞めるよ、
と静かに放たれた言葉が、すとん、とオレの心に落ちていく。そして最初は軽かったそれが段々と重みを増して行った。 あぁ、そうか。この言葉を直接自分に向けられて聞くまで、信じていなかったのか。どんどん重みを増して沈んでゆくその感覚は、絶望に近い、ショック。
「…オレにとって、南沢さんと二人でFWできた事が何よりも喜びでした」
微笑を浮かべた南沢さんの顔を見れず、オレは俯き地面に向かって言った。
「南沢さんのいないサッカーなんてサッカーじゃありません。だったら…、オレも、」 「お前は辞めんなよ」 「…なん、…で…」
思わず顔を再び上げれば、何時になく哀愁の色を浮かべた綺麗なブラウンがあった。 頭にぽんっと手を置いて、わしゃわしゃ掻き回す。その感覚が心地よい。髪をかき乱されたのに嫌なんかじゃなかった。
「泣くなよ」 「……泣いてないっす」 「素直じゃねーのな、のりくんは」 「っ…その呼び方止めろよ……」 「目だけじゃなくて顔も真っ赤だ」 「……うるさい」
ふふっと微笑んだ南沢さんの手が頭から離れたかと思えば、また背中を向けていた。
「お前はサッカー大好きだろ。辞めるとか言うな」
その通りだ。サッカーが好きだからサッカー部に入った訳で、大好きなサッカーが大好きな南沢さんとできる事が何よりも楽しかったのだから。
「サッカーやってるお前が、俺は好きなんだからな」
じゃーな、と片手をひらひら振って去っていくその背中に向かって、オレはめいいっぱい叫んだ。
「……オレは、…サッカーやってない南沢さんも、す、好きですからね」
恥ずかしくなって、そのまま背中を向けその場を走り去った。
埋まらない距離
あなたの隣に居させて下さい、なんて願いは叶わないだろう。 でも、あなたの背中を追いかける事くらいは、叶えてくれてもいいんじゃないっすか。
(いつになったら、オレはあなたの隣に居られるでしょうか)
end
*****
気持ち的には南(→)←倉。 南沢先輩は背中で語る男ですね…先輩の背中を追い続ける倉間が可愛いです 部活辞めないで下さいって泣いて引き止める倉間もいいですが、個人的にはこういう展開のがおいしいです 南沢さんが二年生から一軍のFWだというところは捏造です。確かアニメにセカンドユニの南沢さん出てた気がします… 南倉好きすぎてつらいです
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