dolce text | ナノ
傍らに感じるぬくもり
今思えば、「じゃあオレも」だなんてその場の状況に流された、とても単純すぎる考えだと自分でも思っている。 今更うじうじ悩んでも仕方ないのに。 やってしまったことは、もう変えることができないのに。 フィフスセクターに対抗するということを本当の意味で理解していないし、覚悟もできていない。
そんな自分が、大嫌いだった。
同時に、何故みんながフィフスセクターに対抗することを受け入れているのかも、自分には理解し難かった。 最後までフィールドを動かなかった倉間くんでさえ、練習に積極性が見られるのだ。練習中、オレがフィールド上で悩んでいたことを、神童くんだけでなく倉間くんにまで怒鳴られてしまったし。
「速水さあ、お前、サッカーどう思ってんのよ どうなのよ?」 みんなが、わからなかった。
一番多くの時間を共にする、仲が良い浜野くんも、それを受け入れ始めているのだ。 思っていることをそのまま口にする浜野くんの事であるから、天馬を信じてみてもいいというその言葉に気持ちの偽りはないだろう。 浜野くんも、そっちへ行ってしまった。 覚悟ができていない部員は、もしかしたらオレ、だけかもしれないなんて。
「…ホントは、自由にやりたいんですよ……そりゃもちろん」
もちろんその気持ちはみんなと同じだった。サッカーは勝敗が分からないから頑張れるし、楽しい。
でも、フィフスセクターに逆らえば何があるか分からない。 既に逆らってしまっているこの状態で未だ罰を下されていないのだから、今後に不安を感じるのは当然だと思うのだが。
「だよな」
いつものように、浜野くんは笑ってそう言った。浜野くんの笑顔は、いつもオレを安心させてくれる。そして気付く。
そうか、浜野くんはサッカーが好きなんだ。
さも当たり前の事を、その笑顔から無意識に感じ取って納得してしまった。 サッカーができなくなる不安より、サッカーが好きだという気持ちのほうに重きを置いているのだ。
「多分、みんなそりゃ不安はあると思うよ。でも、みんなでやったらなんか出来ちゃいそうな気するんだよね」 「…みんな……ですか?」 「うん、もちろん速水も入ってるよ。剣城もね」
ちゅーか、みんなでサッカーやるから楽しいんだよな。 先程と変わらない笑みを浮かべてそう呟く浜野くんは、眩しかった。
「でもまぁ、速水は焦んなくていいんじゃね?ゆっくり考えなよ」
「…じゃあそれまで……待っててください…」 「もちろん、ちゅーか親友として当たり前じゃね?」
そう告げれば直ぐ様承諾してくれた浜野くんは、別にそっちへ行ったとかそういう訳じゃなかった。 浜野くんの口から発せられた“親友”という言葉に、妙に安堵を覚えた。 浜野くんは、一歩を踏み出し始めただけで、オレの隣にそっと寄り添ってくれていたのだ。
自分の中で気持ちの整理はまだつきそうもないが、いつの間にか焦りは消えていた。
傍らに感じるぬくもり
end
*****
14話より。浜野は無意識に鶴正を支えていればいいなと思いまして。 隣にいるよ、置いてかないよ。だから、ゆっくり考えて答えを出しなよ。鶴正を誰よりも理解してるから鶴正の感情が置いてきぼりにならないように支える浜野。 書けて満足です。
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