dolce text | ナノ
出会い
初めは、よくわからない人だと思った。
「おれ、浜野海士。えっとー…なんだっけ?」
一年前の雷門中学校入学式。 顔馴染みのいない中、割り当てられたクラス、割り当てられた席へ着き、形式染みた自己紹介を一通り終えたところでチャイムが鳴った。 休憩にしようかと担任が提案し、出席番号が最初のクラスメイトが号令をかけ、一息着いた時だった。
前の席に座っていた彼が、背もたれを前で抱えるような形でこちらに体を向け、突然そう言った。
「速水……速水鶴正です…」 「そうそう速水!よろしくな」
日に焼けた黒い肌、風に靡いているような癖のある黒みを帯びた青い髪。額にはゴーグルをしていて、屈託のない笑みを浮かべ浜野くんはそう言うと手を差し出してきた。 思わず自分も右手を差し出して、社交辞令みたいな握手を交わす。
「は、はい……よろしくお願いします…」 「堅いって!ははっ、速水って面白いな」
はははっと楽しそうに笑い出す浜野くんが、よくわからないと思った。 オレは思考がネガティブな方向に偏っているし、表情も暗い。自覚はしている。 そんな性格である自分が面白いと言われたのは初めてだった。どこがそんなに面白いのか。
浜野くんは一頻り笑うと、ごめんごめん、とまた笑って言った。
「でさ、速水は部活何入るか決めてる?」 「オレは……サッカー部です…」
昔からサッカーをやることが好きだった。 サッカー少年の憧れの対象である雷門中サッカー部に入ることが、密かに目標だった。でも入部テストがあるというのは有名な話であるし、入れるかどうかはまだわからないが。 そしてオレは、肉付きが悪くよく細いと周りから言われるため、サッカーをやっているなんて言えば驚かれるのだが(それが少々コンプレックスだったりする)。
「速水も?オレもサッカー部にしようかなって思っててさ、」 「浜野くん、サッカー好きなんですか…?」 「まぁね。じゃあ一緒に見学行こうな!」 「オレ、でいいなら……」
俯き加減でそう答えると、オレの机に両肘をついて顔を覗き込まれる。
「じゃあ速水、聞くけど、お前はおれじゃダメ?」 「そ、そんな事ないです…」 「だったらいいじゃん。一人で行くよりずっと心強いよな」
そう言ってまた嬉しそうに笑う。彼はいつもこんな風に笑うような人柄なのだろうか。
その笑顔を見て、ほんの少しだけ心の緊張がほぐれた気がした。
彼はその後も休み時間が終わるまで、サッカーの他にも釣りが好きだとか魚が好物だとか、いろいろ喋ってくれた。 オレはただ聞いているだけだったのに、休み時間終了のチャイムが鳴ったときに「お前と話すの面白いよ、また後でな」と言って前を向いてしまった。
よくわからない人だ。
でも、悪い心地はしなかった。
出会い
end
*****
久しぶり且つ浜速ハマった勢いで書いた文章なので、中途半端さが極まりないですが… 鶴正は浜野みたいな人と出会ったときにいろいろ不思議に思ってたんじゃないかと思いリハビリを兼ねて書いた浜速初の文章でした。
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