dolce text | ナノ
いつも隣で笑うきみ
20000Hitフリリク / 奏音さま
*緑川が女の子→名前はリュウ
今日は普段より少し気温が高い。 おかげで、ボールを追う事に夢中になっていた俺の全身から汗で身に着けているものはびっしょりと濡れていた。 ふぅ、と一息ついて手の甲で額の汗を拭いながら、ボールを蹴った先に居る彼女――もとい、緑川の方へ視線を向ける。
高い位置にひとつに束ねた萌黄色の髪を揺らしながら、緑川はボールが落ちる場所まで走り、そしてスパイクの側面を使って上手にボールを止める。 その技術はその辺のクラブチームの中学生男子顔負けな程の切れ味なのは、誰が見ても一目瞭然だった。
「ヒロトー!行くよ!」
片手を頭の上で振り、大声でそう叫んだ彼女は綺麗なフォームで助走をつけボールを蹴る。そして殆どその場を動かずに飛んできたボールに俺はタイミングを合わせ地面へ押さえつけるように止めた。
そして汗を拭いながら、ふと喉の渇きが少し気になった。俺がそうなら緑川もきっと、そろそろ水分補給をした方がいいだろう。 少し離れた緑川に休憩を呼びかけて、俺達はベンチへと向かった。
どうして彼女はそんなにもサッカーが巧いのか。問われれば答えは簡単である。 『イナズマジャパンのメンバーであるから』だ。
「今日は何だかいつもより暑いよな」 「だからこまめに水分補給しないと。体調崩したらそれこそ意味がない」 「うん、」
でもFFIは15歳以下の男子が対象であるため、彼女は性別を偽ってこのチームに半ば無理やり食い込んだのだ。 そしてその事実を知るのは、イナズマジャパン内では俺一人、だった。
つう、と首から鎖骨にかけて適度に日に焼けた肌を汗が滑り、それを先程手渡したタオルで彼女は拭った。 頬の脇に伝う一筋の汗が日の光加減で微々であるが輝きを放っていて、そして何故か自分の胸の内がざわついたような感触を覚える。
どうしてだろうか、なんて。
お日さま園からの馴染み、兄弟姉妹のように育てられた俺は、同じく代表として選ばれた緑川の性別を隠すのに自然に協力するようになった。 それを知っているのが俺だけだったのもあるし、『エイリア』という同じ過去を持っている緑川が一緒に選ばれた事に少しの安堵を覚えたのも事実だ。
けれど最近どうも胸の内のざわつきを、そしてそのざわつきの原因が間違いなく彼女である事を、感じている。
ふと隣に目をやれば、なにやら胸の辺りを気にしている様子の緑川。それにすぐに思い当たる節があったので、小声で耳打ちをした。
「トイレで巻き直してくれば?あせもできちゃうよ」 「っう…分かってるよもう!」 「じゃあ俺も顔洗いたいから、途中まで一緒に行くよ」
幸い(と言っていいのだろうか…)膨らみの少ない女性の特徴である胸は、テーピングやサラシを少し緩めに巻く程度で済んでしまう為、汗の問題を除けば練習に支障はなかった。 立ち上がった彼女に続いて、俺もベンチを離れた。
昔から、緑川は明るくて健気で努力家で、根気強くて負けず嫌い。 泣き虫な時期もあったけれどそれは小さい頃の話。
気づけば、そんな彼女がいつも傍にいる事が当たり前だった。 相変わらずその負けず嫌いを遺憾なく発揮している結果がこの状態なんだけれど、少なくとも俺は…
「ねぇ、緑川」 「なに?」
「無茶だけは、しないでね」
そう呟いたように零せば、さらに頭を傾げてクエスチョンマークを浮かべるような表情をされる。
「お前の事だから…一人で考え込んで体調崩しかねないからね」 「大丈夫だって!だって私にはヒロトがいるでしょ」
彼女の言葉に驚かされつつも俺は思わず頬を緩めてしまった。
「ふふっ…うん、そうだね」
いつも隣で笑うきみ
今はまだこの距離感が好ましい、なんて思っていたけれど、どうやら自分が思っている以上に信頼されているみたいで。 まずはその信頼に答えて、彼女が健気に笑う姿でいられるように俺も笑っていようと思った。
end
*****
奏音様、2万打フリリクありがとうございました。リクエストは『イナズマジャパンで一緒にペアを組んで練習』でした。
まず、大変お待たせしてしまった事をお詫び申し上げます。すみませんでした。それから甘を期待されておりましたら申し訳ございません…! 糖度低めのほのぼのに落ち着きまして…ご期待に添えているか本当に心配です…。
当方、意識して書いたつもりはないんですがこれの前のお話だと分かりやすいんじゃないのかな、と思います。 きっとヒロトはどんどん女性の身体になっていく緑川を見守っていたら胸のうちの違和感を感じるようになり、それが自分の気持ちだと知ればいいななんて思い…。 ちなみにリュウちゃんの一人称は「私」ですが、みんなの前ではちゃんと「俺」です。性別バレかねませんからね。…風介の一人称はこの際考えないことにします← もしもっとこうして欲しい!みたいなのがございましたらお気軽にお伝え下さい!できる限りお応え致します。
リクエスト、本当にありがとうございました。
奏音様のみお持ち帰り可。
menu
|
|