マーモンはさ、と呟いて今言おうとした言葉を声に出さずに止める。人には言ってほしいことと、言われて嫌なことがある。
フランはマーモンと比べられる事をものすごく嫌がる。でも、そのわりには死んだ人に嫉妬なんてしないとか、過去を振り返ってどうするだとか、強がったりしているのを見ていると、どれだけ大切にされているかが痛いほど分かる。こんなことを言ってフランを悩ませてしまう俺さえも受け止めて優しく包んでくれる。
たぶん俺はそういうフランの温かさに甘えている。昔はあまり人には興味が無かった。というよりは信じたら裏切られる世界だったから人なんて信用していなかったし。なんだかんだ言ってもフランは大人で安心する所がある。俺より大人だって所は少し生意気だけれど。

「前任が何なんですかー?」

話し方は変わらないのにいつもよりも少しだけ低いトーンと強めな言葉使いには未だに慣れない。

「うんん、なんでもない」

さっき俺が言葉を飲み込んだ時からフランは抱きしめたまま俺の髪を何度も撫でるように上から下へ触れている。

それから俺は、あ。とある事を思い出したために言葉を続ける。

「一ついいこと教えてやるよ」

「なんですかー?」

「俺の目さ、お前が見るの初めてなんだぜ?」

もちろんマーモンも知らねーよ?と言うといつものポーカーフェイスが少しびくりと動いた。そうとう驚いたのだろう。
これは紛れも無く事実なのだがフランは半信半疑のようだ。でも俺はこれから先もフラン以外に目を見せることはないだろう。フランだから特別に許したのだ。この言葉も嘘に変わるのかと思うと少し馬鹿げているが。

フランの指がベルの前髪をすくい上げた。

「こんな綺麗なのに、勿体ない」

でも、ミー以外には見せないでください。そんな我が儘を言われながらも間延びしていない言葉からは確かな意思が伝わってくるのが分かった。
いつもなら適当に返事を返すのだが、久しぶりに余裕のないフランを見たらそんな気持ちは消えていた。

「本当、馬鹿げてますー」

しばらく見つめ合ったまま、どちらともなく短い口付けをかわした。名残惜しそうに離れてからまたフランが近づいてきたから静かに目を閉じた。

誰も知らない瞼にキスを

 (嘘も真実も自分が信じれたらそれでいい)



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