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fin.






「俺は高野さんの事なんか大っ嫌いなんですから!」

俺は威勢良くそう言い放った。啖呵を切った。俺の身体に覆い被さるこの男に向けて、言ってやったんだ。途端、人を嘲笑うかのような低い笑い。10年前のあの時を思い出した。あの時も確かアンタはこうやって人を馬鹿にして、


好きの反対、の反対


俺は嘘を付くのが苦手らしい(というかただ嘘が嫌なだけなんですけど)。俺はすぐ顔に出るらしい(四六時中仏頂面の誰かさんには言われたくないんですけど)。俺は高野さんが好きらしい(そんな事は断じて言っていない)。
自分の都合良い様に捉えているのは、俺じゃなく高野さんじゃないか。

「ふーん、…嫌いね」
「そう、です!」

なんでこの状況で、こんな文字通り正面切って、好きだの嫌いだの討論しなければいけないんだ。
未だ見慣れない高野さんの部屋、寝室。同じマンション、同じ間取りだというのに住む人が違ければこんなにも違った世界に見えるのかと知った。別に付き合っている訳でもない、好きだと豪語した訳でもないし、セフレって訳でもない。曖昧な関係だけれど、それは俺がその答えにまだ辿り着いていないってだけで、向かった先の光は決まって同じ色をしている。
高野さんの事は嫌いじゃない。
ただ、癪で、何かが俺を抑えていて。

目の前の高野さんから顔を逸らそうとしたのに、途端頬を両手で包まれてはそれすらも叶える事が出来なくて、俺は強く瞼を閉じた。見ていられない、こんな至近距離で。繋がった身体がギシギシと軋む。乱れきった服が汗でただ肌に吸い付いて、張り付いているだけの滑稽な格好で、熱に魘されるが侭時間が過ぎていく。高野さんから快楽を与えられる度に何度その欲を放っては泣いて、最早呼吸の方法さえも霞んできてしまっていると云うのに、『足りない』とそう言っては、俺にキスをしてくるんだ。

「お前、嫌いな奴と寝るんだ?」
「…−…っそれは、‥!…ぁ、ッあ‥」
「嫌いな奴に組み敷かれて…んな声出してんじゃねーよ」

『それは違います!』抗議の声が消されてしまう。
だって、正直に言ったところで嫌いでない事は事実。だから、『お前は誰とでも寝るんだな』、とも取れる台詞に少しばかりカチンと来た俺は勢い余って食って掛かるように上半身を浮かせたんだ。

その瞬間、高野さんが俺の両膝を持ち上げて緋肉を抉る。その体勢の所為か、高野さんの体重が加わってより奥へ奥へとジリジリ熱が進んで、潜む痼を虐める様に的確に角度を捕らえるものだから思わず声が漏れてしまった。突き上げに応じるだけでいっぱいいっぱいだと云うのに、首筋に這う舌が鎖骨を伝い流れ着いた乳首に絡む。

「ちょ‥―っん、あ、っ高野さ、ん…」

両脚の間に割って入ってくるおかげで、目一杯開かされた足が痛い。それなのに、引っ切り無しに漏れる蜜が肌を這うただ其の感覚さえも快楽に繋がって、いつの間にか包まれていた屹立を擦り上げる掌の熱も、乳首を噛む其の甘い唇も、全部が全部高野さんだから。
ムカつく事に、其の腕が心地良いと思ってしまったから。

だからこれは、精一杯の悪足掻き。

「〜…‥アンタの事なんか」

何かにつけて文句ばかり言うし
俺が嫌がる事ばかりするし
場所なんて関係なくセクハラしてくるし
我儘だし、傲慢だし、横暴だし

高野さんなんか、嫌い。
嫌い、嫌い、大嫌い。


…‥なのに、
(認めたくないけれど)

どうしようもなく好きなんです…。
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