あの日見た、キミの笑顔が忘れられなくて。
また今日も、キミを探してる。
「――尾。…神尾、手止まってるよ。」
「おわっ!?…深司、ビビらせんなって。」
「…さっきから呼んでるけど?それとも何?俺の声って、神尾の耳に入らない程度って事?…なんだかなぁ。」
深司のヤツ、相変わらずブツブツ言って。こうなると後々面倒なんだよな。
「ハァ…、誰もそんな事言ってねぇだろ。」
「だいたい悪いのは神尾だろ?また、あの運営委員の事でも探してるワケ?そういうのは後でやるべきだろ。嫌になるよなぁ…。」
深司の話を聞いてるフリをしながら、キミを探してる。
今頃――、あの笑顔が他のヤツに向けられてないか、って。
*****
初めてキミを見たのは、作業スペース。
合同学園祭の運営委員は何人も居るのに、他の誰よりもテキパキ動いている彼女に。
ありきたりな感想だけど“スゲぇな”って思ったのが最初。
それから何度か彼女を見掛けたけど、話したりした事は無くて。
今思うと、あの時から――だったのかもしれない。
彼女と初めて話した日の事。今もハッキリ覚えてる。
「あれは…桃城?隣に居んのは…あのコ、だよな。」
桃城の隣に居るのが彼女だって、直ぐに分かった。
少し離れた距離に居る俺の所までアイツの声は聞こえるし。
「……でよ〜。で、その後の越前の反応がまた笑えんだよ。」
青学の生徒だってのは知ってた。
名前も、声も知らない彼女が、アイツと仲良さそうに話してるのが気になった俺は、そこから動けなくて。
「でな、その後の英二先輩と不二先輩が…。?神尾じゃねーの。んな所に居ねぇで、こっち来いよ。」
俺に気付いた桃城が“おーい。こっち、こっち”って手ぇ振ってる。特に断る理由も無くて、距離を縮める。
“――遠くで見ていたキミよりも、近くで彼女を見たい”
そんな想いもあったから。
「久し振りだなぁ、神尾〜。お前らんトコ、お化け屋敷やるんだってな。」
「あぁ。青学は喫茶店と綿菓子屋と金魚すくい…なんだってな。」
桃城と話をしながらも意識は彼女に向いていて。チラッと見た瞬間。
瞳が、合った。
たったそれだけの事なのに、何かドキドキして。
「そー、そー。紹介するな。こっちがうちの運営委員の…。」
「青学2年の広瀬静です。えーっと…。」
「…不動峰中2年の神尾アキラ。」
言葉を交わすのも、近くでキミを見るのも、勿論初めて。
「学校は違うけど、よろしくね。神尾くん。」
そう言って、笑う彼女。
初めて見た彼女の笑顔が印象的で。…情けねぇけど、固まる俺。
「?どーかしたか?神尾。」
「あ…いや。当日は遊びに来いよ。」
“おー。行く、行く”って答える桃城の横で、控えめに返事をしてたから。
「ひょっとして…お化け屋敷、苦手とか?」
「えっと、あの……少し。」
答えた彼女の口調から分かる。“苦手”なんだって事が。
「苦手なら、無理して来なくても…。」
「ううん、他の学校の模擬店も気になるし。……絶対行くから。」
って、話したんだっけ。
交わした約束も些細な事だけど、嬉しくて。
あの日から、少しづつ話す様になったんだよな。
今まで俺の周りに居た女の子、杏ちゃんとは違う感覚に最初は戸惑ったけど。
広瀬と話してる俺を見ていた深司に、言われた一言で自覚する。
“神尾ってさぁ、あの青学の運営委員が好きなの?”
(…そっか。だから、広瀬の事が気になったり、ドキドキしたりしてたのか…。)
“俺は彼女が――、広瀬が好きなんだ”って。
*****
「でもさぁ、彼女とは学校が違うだろ?告白とかしないの?」
「うるせぇって…。?あそこに居るの…。また一人で無理しやがって…。悪い、ちょっと行って来る!!」
「…あーぁ、行っちゃった。彼女を見るといつもこれだもんなぁ…。」
俺と彼女は、学校が違うから。一緒に過ごせるのも後僅か。
出来るなら、このドキドキをキミと――共用(とも)に出来る事を。
そう願っても、叶うかどうかは、分かんねぇけど。
また今日も。
「広瀬。危なっかしいから、手伝ってやるよ。」
そんな言葉を口実にして。
キミに会いに行く。
(放っておけない――ってのもあるけど、やっぱり。)
キミが好きで。あの笑顔が見たいから。
END