昨日より今日、今日より明日は。今より、もっと――。





「皆、集合してくれ。…今日はこれで終わりだ。じゃあ、解散。」

「ありがとうございましたっ!!」



部長の一言でテニス部員が一斉に礼をした後、皆が散り散りに移動する。



そこまでは良かったんだ。…部長のあの一言さえ無かったら。




「あ、マネージャーは少し残ってくれるかい?練習メニューについて確認があるんだ。」



片付けを始めた手を止めて、“わかりました”って返事してんのは俺の彼女、広瀬静。



氷帝の跡部が主催した、合同学園祭の最終日に告白してから、付き合うようになった。…まぁ、その場面を先輩達に見られたりもしたけど。



その後、俺の頼みでテニス部のマネージャーになってくれて、入院してた幸村部長も復帰して…そこまでは良かったんだ。けど…。



…不満があるとすれば。




目が合うと静が駆け寄って来て、すまなそうな顔してる。……何か嫌な予感がすんだけど。



「ごめん、赤也くん。遅くなるかもしれないから一緒に帰れないかも…。」



……やっぱり。



この前は、丸井先輩とケーキ食いに行く約束して。



(丸井先輩は“赤也は付いてくんなよ”とか言うし。)



その前は、柳先輩にテニスについて教えて貰うからって。



(柳先輩は“赤也が居ると邪魔をするかもしれんな”とか言うしさ。)



結局、一緒に帰れなかったし。で、今日は部長かよ。


……なんか思い出すとムカつくんだけど。




俺の前で謝る静に、渋々頷く。…ホントはスゲぇ嫌なんだけど。



「……分かった。」



そう返した俺に、もう一度謝ると部長の居る方に走ってく。



「ハハッ、不満そうだな、赤也。まぁ諦めるんだな。マネージャーは優秀で、皆気に入ってるからな。」

「!?ちょっ…何なんっスか、ジャッカル先輩。…んなの、知ってますよ。」



軽く叩かれた頭を押さえてジャッカル先輩を追う様に部室に向かう。




皆、静を気に入ってる――んな事、言われなくても分かってる…。




*****




「…遅ぇ。いつまでやってんだよ。確認だけっつったじゃん。」



部活が終わった時よりも、暗くなり始めた空を見上げて恨みがましく呟く。



着替え終わって、帰ろうかとも思ったんだけど……やっぱ一緒に帰りてぇし。



校門前で待ってる俺に聞こえて来た会話。待ってた人物と…、もう一人。



「もう暗くなっているし、送って行くよ。」

「いえ。方向違いますし、悪いですから。」



二人のやり取りを聞いてた俺の足は自然とそっちに向かってた。



「静、…帰ろうぜ。部長、お疲れ様でした。お先失礼するっス。」

「え!?赤也くん?何で…あの、そんなに引っ張らないで……。すみませんっ、お先に失礼します。」



目を瞬かせてる静の手を掴んで歩き始めた俺の後ろで、部長にそんな声掛けてるし。



……人の気も知らないで。



*****



「赤也くん、…赤也くんってば!!…手、痛いよ。」

「え…。あ、悪ぃ…。」



学校を出て無言のまま暫く歩くと、その声に慌てて掴んでた手を離す。



部長と静の二人が話してた、それだけなのに。俺、嫉妬してた――。



先輩達が気に入ってんのは分かってる、分かってるけど――コイツと付き合ってんのは俺なのにって。



コイツは悪くない、俺が勝手に嫉妬してるだけ。…カッコ悪ぃ、俺。



俯く俺に“赤也くん?”って呼ぶ声がするけど、返事が出来なくて。



「「…………。」」



少しの沈黙の後、肩に感じた、微かな重み。



「なっ!?…今、の。」

「……ちょっとは元気出るかな、と思ったんだけど。……待っててくれてありがとう、赤也くん。」


背伸びした足が地面に触れると、頬に触れた口唇で話すアンタが、嬉しそうに笑うから。



「ったく…バカみてぇじゃん、俺。」



“何の事?”って首を傾げる静を抱きしめて。



「いーよ。アンタは分かんなくて。」




キス一つと、アンタの言葉で、改めて思う事。



“やっぱりキミには適わない”




昨日より今日、今日より明日。



365日――、今この瞬間も、もっとキミを好きになる。







END





『もっと学園祭の王子様』って事で、最初と最後に『もっと』を入れてみました(笑)

先輩達に邪魔されてそうな赤也をイメージしてみました☆








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