妖縁 | ナノ

10


京の都につくと、もう日が落ちていた。

もう二刻ほど経ってしまったのか、と思った澪。
真っ暗とは言えないけども、多少は暗くなっている。

澪は匂宮と一緒に屋敷に帰った。
しかし、屋敷の中は真っ暗で灯りがついていなかった。


澪は火を灯りにつけて部屋を照らしてみるが、人の気配も妖怪の気配もしない。

「あれ、玉藻?」

玉藻は屋敷にいなかった。
部屋にも居間にも玉藻の姿はない。
しかし、居間の所には置き手紙が置いてあった。


『友達のところに2日間泊まってくる』と手紙には書かれてあった。

「友達って…?」
「さあな。あいつの友達関係までは把握しておらん。」
「えー…宮、玉藻のお兄ちゃんでしょ?」
「兄ではあるけど、妹の友人関係まで把握するか?澪も、靖紀の友逹とかは知らないだろう?」
「確かに…そうかも」


匂宮は手紙を畳んで置いた。


「水妖の都は、まあ見た通り風俗とかも多いし、薬の横行もある。賭博とかもしている場所もあって、治安は妖怪達の国の中では一番悪い」
「…」
「何故、ああなっているか知っている?」
「…え?」

澪は京の都しか知らないし、他の土地がどんな風な生活や文化なども考えたことがない。だからこそ、異国のような街並みや「花街」という雰囲気の水妖の都はすごく新鮮だった。

「…わからない」
「答えは、水妖の都は今『頭領がいない』という事だ」

頭領がその土地、もとい妖怪の一族の一番偉い人だというのを匂宮は説明する。
京の都で言う、「帝」とほとんど同じような者だということ。その頭領が国をよくするために政治をすることなど。

「そうなんだ…」
「水妖の所は、今までの頭領が急に引退をしたらしくてな…。そして跡継ぎを『一番強い奴が継げ』と言ったらしくて、あんなに治安が悪くなったという」
「…」
「一人で歩くと、変な奴等に声を掛けられたり変なところに連れ込まれたりとかもあるから…私も水妖の都に来るのは久しぶりなんだ。」


匂宮はこの姿で声を掛けられたとしても、大体男だとばらすことが多いらしい。
もしくはさっきのようにして逃げるから害はない、と言う匂宮を澪は不安げな表情で見た。

「夕霧に用があるときは、逆に外に会ってるんだ。」
「そうなんだ…」
「呼んだらわりと来てくれるからな。あいつにも気分転換になるだろう」

夕霧の名前が出て、澪は夕霧もその水妖の頭領を目指しているのかと気になった。

「…ねえ、夕霧はその頭領目指していたりとか…するの?」
「目指している。もうちょいで一番大きい派閥を倒せるらしくて、今忙しいみたいだ」
「…」

澪は、にこにこと優しい笑みを浮かべていた夕霧が戦う姿を想像してみようとしたが、あまり想像が出来なかった。そこまで筋肉質ではない体格に見えたのもあるが、温和そうな彼が他の妖怪を殴ったりする様子が想像できない。

澪が悶々としているのを見て、顔にそれが書いてあったかのように考えが読めた匂宮は思わず口を開いた。

「いや、想像できるぞ普通に…。アイツ怒ったら一番面倒くさいし、なかなか気持ちの切り替えできずに相手を叩きのめす野郎だぞ…?」
「それがまったく想像できないの!大丈夫なのかな夕霧…」
「たぶん大丈夫だろうよ。」
「…早く落ち着くといいね。」
「ああ。」


澪はお茶を淹れに行くといい、匂宮の元を離れて台所に行く。

水妖の都は頭領がいない。
では、妖怪の国である「化野国」では他の頭領はいるのだろうか。
澪は部屋に戻って匂宮に聞いてみる。

「化野国では全体を統治する者が一人と、あとはそれぞれ種族別のようなもので頭領がいるんだ。妖狐の里では私の…父がやっている」
「えっ、じゃあ宮って東宮なの!?」
「東宮?」

東宮とは、京の都でいう所の帝の跡継ぎだ。
「皇太子」という役職の事である。「東宮」というのはその皇太子が住む場所であるので、そう呼ばれているのだ。

「跡継ぎ、かどうかはわからない。私には継ぐ意思はないし…アイツから言われたところで素直に『はい、わかりました』とか言いたくない」

匂宮はその「アイツ」の顔を思い出したのか、うんざりしたような表情に変わる。先程の妓女に会った時よりももっとうんざりした顔だった。


「お父さん、と仲悪いの?」
「仲悪い。いろいろあってな」

匂宮は怒ることもなく淡々と答え、澪が準備したお茶を飲んだ。

「そっか…」
「澪は両親とは早くに死別したのか?」
「10歳の時かな」
「…そうか。病気か何か?」
「…違う」

澪の表情が曇った。

「違う?」
「殺されて…」
「そうか。悪かったな、変な事聞いて」
「う、ううん。私こそごめんね…。ほ、ほら、明日もあるからもうご飯を食べて早く休もう?」
「そうだな」


匂宮は、澪の両親の事とかいろいろ聞きたかったが聞けなかった。
あれ以上つっこんで聞こうものなら、彼女はもっと表情を曇らせていた事だろう。

「まあ、時間がたてば…澪が話してもいいと思った頃に聞くか」

と、匂宮は思いながら澪の手伝いを自分からしていた。
澪の方はというと、夕食の準備をしている時にまた疑問が生まれた。


…夕霧は何も言わなかったが、受付にいた綾乃の言葉が引っ掛かった。
そして、名簿に昨日の日付で匂宮の名前があったことも。


「宮って、昨日水妖の都に行ったの…?」

同姓同名、という可能性も考えたが…『匂宮』という名前は珍しい名前だ。なかなか同じ名前と言うのは考えにくい。

つまり、昨日匂宮と夕霧は会っていたのだと言うことだ。


でも、昨日匂宮は陰陽寮にいたはず。
実際は席を外していた時間があったが、陰陽寮とあの芽楼湖は徒歩でもかなり離れている。

席を外していたのは、三時間半くらいだった。
そんな短時間で戻ってくるのは不可能だと思う。


『一体、昨日のいつ行ったのだろう…?』

そう思いながらも、澪は聞くタイミングを逃して聞かずに眠りについたのだった。


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