妖縁 | ナノ

07


「真珠ですね、わかりました。」

夕霧は戸棚の所から箱を取り出す。
そして、箱を開けるとたくさんの真珠が入っていた。

たぶんこれが、瑪楼の真珠だろう。
夕霧は箱の中から、真珠を20個程集めて拾った。そして匂宮から貰った青紫色の巾着に入れて、紐を結んだ。


「どうぞ。丁度20個ですね」
「有難う」

匂宮は受け取った巾着を懐の中に入れ込んだ。
その様子を見ていた澪は、疑問に思った事を聞いてみた。

「ここで、あの真珠って貰えるの?」
「基本的にはここが確実ですね。あとは、まあ街のお店の方でも売っていますが…粗悪品とかも偽物もあるので気を付けてくださいね」
「…うん、わかった。」


澪は、ここに来るときに見た街灯がたくさんある店や建物がたくさんあったのを思い出した。そこでも一応売ってあるんだろう。でも、夕霧の言う通り、ここで購入した方がよさそうだ。


「偽物だと、水妖の都に来る前に溺れて死ぬからな。かならず正規品でじゃないといけない」
「そ、そっか…たどり着く前に死んじゃうのは嫌だね」
「正規品は、真珠の色が白金色でとても華やかなものだ。あと、いきなり飲み込まずに少し舐めてみたらわかるが、ほんのりと塩味っぽいのと香りの強い花のような味がするのだ」
「…」

先程ここに入る前に真珠を口に入れた時には、訳も分からずに飲み込んでしまったのでまったく香りも味もわからなかった。


「普段は舐めずに飲み込むから、違いがわかりにくいが…。口に入れた時に香りがするからわかる」

匂宮は帰り用でポケットに入れていた真珠を一つ取り出し、窓の光に透かして見る。なんとなくだが、光で薄い白金の色に見える。成程、こんな感じの色か、と澪はなんとなく思った。


「匂宮さん、今少しだけ澪さんに席を外してもらうことできますか…?少しお聞きしたいことがありまして」
「…手短にできるか?」
「はい。」
「澪、少し待合室で待ってもらえるか。ちょっと二人で話をしたくて」

澪は少し困った顔をしたが、頷いた。

「すみません、澪さん。すぐ終わるようにはしますので…。綾乃さんが待合室にいるので、何かありましたら彼女に申し付けてください。なんなら暇つぶしのお相手にも」
「…うん。できるだけ早めにね?」

正直、澪にとっては匂宮や玉藻以外の妖怪と会うのは今日がほぼ初めて。ましてや、綾乃も今日出会ったばかりで…。うまく話が弾むか心配だった。

「もう一匹来るので、その子ともお話してあげてください」
「ひえっ」
「なあ、夕霧。澪は男嫌いな性格なのだが惟周とかいないだろうな?」

匂宮は少し心配したような口調で聞くが、夕霧は首を振った。

「弟は今日はいませんよ、お店にいるはずです。でも、綾乃さんの他に今の時間なら…待合室にいるのはいつもの…手紙を持ってくる『さむがりお化け』です」
「…あの子ね。まあ、あの子なら大丈夫かな…」

『さむがりお化け』という名前からして妖怪だろう。澪は少し不安そうな顔をしているが、匂宮は夕霧の机にあった紙に『さむがりお化け』の似顔絵を描いた。


紙には、可愛らしいお化けの外見で口がへにょへにょしているものが描かれている。



「おや、そっくりですね。本当にこんな感じの子なんですよ。お喋りは出来ないのですが、筆談なら会話できますよ」
「そ、そうなんだ…」
「危険な妖怪じゃないぞ。手紙持ってくるだけの子で…とにかく寒がりだから温かくしてやるとすぐ仲良くなる」

不安そうな澪はその似顔絵が描かれた紙と匂宮の顔を何度か見て、納得しかねた顔で待合室の方へ向かう。


「たまたま手紙持ってきていたんですよ。で、水分補給してもらっていたので…丁度良かったですね」
「まあ、そうだな」

夕霧は扉を閉めて、立ったままの匂宮に座るよう促した。


「綾乃さんからお聞きしましたが、疲れが取れないとおっしゃっていたそうで…」
「たぶん、ずっと『この姿で化け続けている』ことが原因だと思う」
「成程」

夕霧は納得したような表情になって、机に置いてある紙に匂宮から聞いた話を書きとめる。


「できるだけ術が継続できるよう、何か特殊な薬とかないかなーと思ってさ」
「ないですね。たまに休憩…いや、休憩と言うか、澪さんが離れているときに元の姿に戻る事くらいじゃないですか?」
「…だよな」

匂宮は頭に手をやってガシガシ掻きむしった。


「仕方ないでしょうね。あ、そういえば、匂宮さん。いつも時間に正確な貴方が今日は珍しく少し遅れましたね。何かありました?」
「あ…。ちょっとな」


部屋を出る寸前に、夕霧から声を掛けられた匂宮は振り返った。
澪に、最初の待合室で少し待っていてくれ、と伝えて匂宮は夕霧の部屋に戻る。

「すみません、引き留める形になってしまって」
「いやいや、少しだけならいい。えっとな…」

匂宮はここに来る前に2人の男性に絡まれたことを伝えた。
夕霧は話を聞きながら、眉を顰める。


「どんな特徴の奴らか、覚えていますか?」
「えっと…。片方が目の所に傷があって、着物がある意味ぶっ飛んだ感じの」
「ぶっ飛んだ?」
「切れ込み?が入ってる、着物っぽくない着物を着ている2人組という感じかな?」


匂宮がそう言った途端、夕霧は誰なのかを察した。
そして、表情が怒りの表情に変化する。手に持っていた筆をへし折った。ただの怒りの表情と言うより、般若の面のような恐ろしい顔だった。


「その二人に、何かされました?」

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