妖縁 | ナノ

12


「どうしよう…」

澪は鏡をジーっと見ていた。
匂宮は何事だ、と思いながら眠い目を擦って澪をみる。

澪は、短い髪の毛をなんとか結ぼうとしたり、ほどいたりと、髪の毛に手を添えて格闘をしている。上で一つに結ぶと、少年くらいの短さになり…。かといって、下で結ぶのもしっくりこない様子で、何度も結んではほどくのを繰り返している。

「澪、何をやっているのだ」

匂宮が欠伸をしながら、澪に声をかけた。
澪が振り向いた。口を開きかけ、澪はじーっと匂宮を見つめてため息をつく。

「…どうか、したのか?」
「宮は…男の子だけど髪長いよね…いいな」
「は?」

とたたた、と歩いて匂宮に近づく澪。
そのまま、澪は匂宮の髪に指を通す。

くるくると指に絡ませたり、櫛のように動かしたり。
毛先だけが晴れた空のように綺麗な色の所を触ったり。

正直、長さと言ったら澪とそんなに変わらないと思う。唯一長い部分と言えば、匂宮の後れ毛の部分。そこは自分のおへそくらいまで長い。


「…私、髪短いから…女の子っぽくないなって…」
「…」
「前まで腰くらいまで伸びてたのに…。皆から、変な目で見られたらどうしよう…」
「誰もそんなこと、気にせぬと思うが…」
「気にするよ…。だって、京の都は女の子は全員髪が長いんだよ。皇族のお姫様とか、腰よりも長いし…」


澪は、匂宮に「京の都」の女性について説明をする。
匂宮は知らなかったが、この京の都の女性の流行があるらしい。

「髪を長く、綺麗に伸ばすことが美人の条件」
というものがあるらしい。
あまりハサミで切らず、毛先や長さを少しそろえるくらいだけらしい。
艶々な髪こそ美人なのだと言われている。


澪は、靖紀の妻である義姉が生きていたころのことを思い出す。
彼女は、黒い髪で床につくくらい長く…そして艶々で黒曜石のような、綺麗な髪の毛だった。

もちろん、黒髪でまっすぐの髪が一番美人だと言われるが澪は茶髪だし、髪もまっすぐではない。どちらかというと波打った、ふわふわの髪だ。


「派手な髪型とか飾りはダメだけど、せめて…女の子らしくなりたいなって…。術も練習してるけどダメだし…何やっても私ダメだなぁ…」


澪は口に出しながら、だんだんと落ち込むような口調になった。

稀代の陰陽師、唯幸の孫娘なのだからもう少し自信を持てばいいのに…と匂宮は思う。自尊感情の低い所は、あまり好ましい所ではない。
しかし、謙虚で素直な所はいいと思う。自分なぞ態度が大きい、とよく父に鉄拳食らったものだ、と匂宮は思った。


しかし、彼女の髪は短いからあまり髪型変えて…というのは難しい。しかし、買いにいくにも、あまりお金はないし、仕事中に落としてしまったりしたら大変だ。

「あ、そうだ」

匂宮は自分の腰に巻いていた、紫の帯に手をかけた。
しゅるしゅる、と外す。その音に、澪は落ち込んでいた顔をあげ、匂宮の手を見つめた。

そして、彼はその帯を蝶々結びにする。
綺麗な大きな蝶々の形ができ、長く余ったところはハサミで切り落とした。そのままリボンを澪の頭に乗せて鏡を見せた。

「ほら」
「わぁ…!!」

そこには、大きめのリボンをつけた自分が映っている。先程よりも、女の子らしさが
見た目に出ており、揺れるリボンが控えめに見ても可愛かった。


「かんざしみたいなもので留めれば落ちることはあるまい。どうだ?」
「で、でもいいの?宮の衣装の一部でしょう?」
「構わん。もう切ってしまったから帯にはできないし。貰ってくれ」
「う、うん…ごめんね」

謝ろうとする澪の頬を両手でつまむ。
困惑する澪の頬をむにむにと触りながら、匂宮は苦笑した。

「んぇ」
「謝罪はいらない。『有り難う』の一言でよい」
「うん、有り難う…!」

澪の表情は、まだ戸惑いの色が出ていたものの。
ようやく笑顔を見せてくれた。浮かれたように、何度も自分の頭のリボンに手を伸ばしている。

「気に入ったか?」
「うん…!凄く可愛い…!!」
「そうか、それならよかった」

匂宮も澪と同じように笑みを浮かべる。にぃ、と口の端が吊り上がる。
すると、澪は目を瞬いて匂宮の顔を見る。


「どうかしたか?」
「いや…宮の笑った顔…初めて見たなあ、と思って」
「そうか?」


匂宮は自分の頬をつまむ。
確かに、澪の前では怒ったり不機嫌になったり。
苛立ったりすることの方が多かったかもしれない。
主にその原因は主に唯幸のせいだ。


「あ、そうだ。宮、私やりたいことがあるの。手伝ってもらえる?」
「その内容によるかな」
「ちょっと、術の練習を…。だめ?」
「見てやることはしてもいいぞ」
「ええー!?」

匂宮は澪の術の練習に少しだけ見てあげた。
出来はまあまあ。陰陽寮で少し護身術的なのを学べばいい、くらいの出来だった。

いよいよ、明日は。
初めての、澪の出仕の日である。

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