小説 | ナノ


▼ 03

戴冠式当日。10月4日。
その日は暑くも寒くも無い。
気温にも天気にも恵まれた、秋晴れであった。


歴代の帝国皇帝が戴冠式をあげた大聖堂に、エステルはいた。

エステルは聖油によって体を清められ、薔薇の香りの精油を手首と耳の後ろに塗ってもらった。

耳には自身の誕生石のエメラルド、ダイヤを使った鮮やかなイヤリング。これはエステルの母が皇妃になったときに着用したものだ。

女官に化粧もしてもらい、薄紅の薔薇色の頬と紅色の口紅を引いてもらう。髪は王冠の邪魔にならないように位置を調整して結い上げられた。


そして、ドレスはミルカからの最期のプレゼントであるミントグリーンとアイボリーのレースとフリルの、ものを着用した。衣装の微調整も昨日終らせた為にピッタリのサイズだ。


本来なら即位式用の、王妃の冷服用のドレスを進められたのだがエステルは頑としてこのドレスを着ることを主張した。シェーンブルーの大臣達は、それが彼女の妹の最期のプレゼントだと知っていたため、反論できなかった。


エステルは、白豹の毛皮に金の刺繍のマントを羽織る。これは歴代の皇帝が着用したものであるが、エステルの体格に合わせて新しく同じ生地で作ったのだ。


厳かな雰囲気の中、式は滞りなく進んだ。

パレードや宣誓式、賛美歌斉唱に大司教のお説教。
どれもこれも緊張し、コルセットでぎゅうぎゅうに締め付けられているからか気分が悪くなりそうだった。


ふらふらとした足取りになったエステルに気を遣い、少しの間だけ休憩を取ることになった。お茶を飲みながらエステルは気分を落ち着かせる。胃のムカつきが少しでもとれるよう、ミントの香りのお茶を一気飲みする。

あと五分で…メインである戴冠の儀が始まる。
シェーンブルーやイシュトヴァーンよりも大掛かりで…見学に来ている人々の数も圧倒的に多いだろう。


休憩用の小部屋をノックし、女官の声が聞こえた。

「エステル様、そろそろ」
「わかったわ。有り難う」


エステルは、自身の頬をぺちんと叩いた。
気を引き締めて、立ち上がりドアを開けた。女官がペコリと頭を下げ、エステルに耳打ちした。

「教皇聖下から、例の件の準備もできているとの伝言をいただいています」
「そう。…わかったわ、有り難う」

小声で女官の子に返事をしたエステル。
堅い表情が少しだけ和らいだ彼女は、晴れ晴れとした気持ちで聖堂の扉を開けた。

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