▼ 05
「…私今までずっと思っていたことがあったの」
エステルはエドヴァルトの扱われ方にずっと疑問を抱いていた。
エステル自身は皇族で、エドヴァルトは貴族だ。
生まれる所は自分では選べない。これは仕方の無い事だと思う。
しかし、エステルとエドヴァルトは又従兄妹同士だ。
彼にも皇帝の一族の血は流れている。その事をシェーンブルーの貴族達は知っているのに、エドヴァルトを格下の扱いしかしていない。
「殿下」の敬称をつけなかったり、意見を聞かなかったり。
イシュトヴァーンの戴冠や『帝国』皇帝の戴冠での席を用意していないことにも。
王の配偶者なのだから、ちゃんと席を用意するべきだろうと…何度も主張したのだが、イシュトヴァーンではその主張は聞き入れてもらえなかった。
ほかにもまだ、エステルの知らない所でいろいろ言われたりしているのかもしれない。
そのことについて、エドヴァルトはまったくといっていいほど不満をもらしたこともない。愚痴を言うことも、八つ当たりすることもない。
エステルは、自分の愛する人がそんな扱われ方をしていることに酷く傷ついた。
しかし、自分が介入してもっと状況が酷くなってしまうのではないかと考えてしまい、行動に移すことができなかった自分に腹立たしかった。
何人かの貴族には直接文句や、注意をしたのだがあまり改善したようには思えない。
どうすれば、この状況が変わるのか…エステルは頭の片隅でこのことをずっと考えていた。
「やっと思いついたの。」
エステルは自分の頭上に輝く王冠を手に取り、自分の目の前で持った。
「エド、膝ついてもらえる?」
「…え?」
「いいから。お願い…」
エドヴァルトは疑問に思いながら、膝を突いて屈んだ。
ちょうどエステルの顔と同じくらいに、自分の頭が来る。
エステルは、エドヴァルトの頭に持っていた冠をゆっくりとのせた。
エドヴァルトの、白銀の頭にぴったりの大きさ。エステルは優しく微笑んだ。
「よく似合うわ、エド!」
「エステル…?」
エドヴァルトは膝を床についたまま、エステルを見る。
エステルは笑顔を浮かべながらエドヴァルトに立ち上がるよう促し、手を握った。
「私は、エドにも一緒に皇帝になってもらいたい。
『共同統治者』と言ったらいいのかしら…私とエドが、2人で『帝国』の皇帝になる。
そうすれば、エドも皇帝陛下なのだから、酷い扱いをする人はいなくなるわ」
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