小説 | ナノ


▼ 05


エステルは以前、従姉のアマーリア姫の結婚の時にミゲル王と会ったことがあった。その時に、硬派で威厳がある男性で…気難しそうな方だなと思って苦手意識を持ってしまった。

「…」

それ故に、今回の件で彼を納得させるような事が思い付かない。家柄も王族に近いミゲルが完全に納得してもらわないと、他の国の王からも色々言われたときに反論が出来ない。


「今こういう事態だからこそ、世襲制である皇帝の座を他国の王族が狙う可能性すらありますね。」
「それは有り得るわね」
「むしろ、エスターライヒ家ではないどこかに移る可能性も」
「そ、それは嫌…!!もしそうなったら初代の皇帝陛下達に顔向けできないわ…!!!」

エステルは頭を抑えながら左右に振る。


「世襲制ね…。」


実は「帝国」とシェーンブルー王国の「皇帝」は本来は別のものだった。しかし今現在、シェーンブルーの王座についている「エスターライヒ家」が、「帝国」の皇帝の座を世襲して即位をしていた。「帝国」と「シェーンブルー王位」の王位はほとんど同じようなものとして扱われていた。


王の決め方は、基本的に先代皇帝の意志もしは遺言での指名か「帝国」のミゲル王などの王族に近しい大貴族と大司教、それと教皇で話し合って採決を取るやり方である。


今回は、亡くなったバルタザールがエステルを指名していたのでエステルがまずシェーンブルーの王位を継いだ。それに関してはちらちら周辺の国の王は苦言を漏らしていたが、ほとんど黙認状態で認められた。


認められた理由は、今から10年ほど前。
エステルの父であるバルタザールが「国事詔書」という宣言を出している。
その内容は『自分の長子が皇帝位を継ぐ』と帝国の中の王達や隣国の王達に認めさせて、領土の一部を割譲したりしていた。


それで、ミゲルにも少しではあるが領土割譲をしていたのでミゲル王も一応認めていたのだ…認めていたはずだった。

しかし、バルタザール皇帝が亡くなるとお悔やみの文に「バルタザール陛下の後任は私がやる。皇位を譲ってくれ」と文を送ってきていて、エステルはその手紙に対して激怒していた。


「領土を貰って私の即位を認める約束だったのに、父上が亡くなった途端に約束を反故にするなんて」という意気持ちでいっぱいだった。



皇帝即位の件についても、そのミゲル王と話をしないといけないのに。
次から次にと問題ばかり起きてしまった。

どちらから先に手を付けていいか、わからなくなる。
エステルは頭を抱えた。


「まずは、閣議にかけましょうか。エステル様。シェーンブルーがどう動くかを…早くに決めないといけません」
「…そうね。そうしましょう」

エステルはバルト公に30分後に大臣達を呼ぶように伝えた。
バルト公は、会議室の準備をしに執務室を出て行った。


「エステル…」
「何?」
「大丈夫?」
「…大丈夫じゃないわ。なんかもうすべてが嫌」

エステルは頭を抱えたまま、机に突っ伏す。
それを見たエドヴァルトは、苦笑しながらエステルの側に近いた。

エステルのキレイにセットされた髪形を崩さないように、左手でそっと頭を撫でた。

「よしよし…エステル、大丈夫大丈夫」
「う…有難う…」

エドヴァルトの大きい手で撫でられると、とても安心する。
しばらくその手を堪能して、エステルは顔を起こす。

「ねえ、エド」
「ん?」
「自国を守るために…戦争を起こしたら駄目かしら。私は国を守る義務があるから」
「…積極的にやれ、とは言えない。でも、国を守るために必要なら仕方がないんじゃないかな」


エドヴァルトは戦が嫌いだ。
エステルは反対されるだろうと思っていたが、エドヴァルトは優しい声色でエステルに言った。


「俺は戦は嫌いだけど、戦わずに負けて侵略されていいようにされるのはもっと嫌だね。」
「…そうよね」
「大丈夫。エステルは毅然と立ち向かえばいい。」
「…」

エドヴァルトは、エステルの頬に手をやった。

「俺はエステルがシェーンブルーを愛している事も、義父上様から受け継いだ国を守りたい気持ちは理解しているよ。閣僚たちにどう言われても、エステルの素直な気持ちを伝えてみればいいよ」
「…有難う」
「私がブチ切れたら、落ち着かせてね。事前にお願いしとく」
「わかったよ、出来るだけ冷静になってね。」

エドヴァルトはエステルの肩をポンポンと優しく叩く。
そして、ずり落ちていた軍服をエステルの肩にかけてあげた。
エステルは顔をあげた。その表情は勝気そうな瞳が宿った、女王の顔になった。


「君が強いのはよく知ってるよ。勿論俺は何があってもエステルの味方だからね」
「うん、有難うね。エドヴァルト」

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