小説 | ナノ


▼ 07

「ねー、シェーンブルーの女王様って凄く可愛らしいのね、小さくって羨ましい」

客室に到着したリュドミラとカテリーナは、荷物を置いてお互いベッドに座っていた。ちなみにエフセーイは男性なので隣の部屋に行ってもらった。

「そうですね、私も貴女も身長高いのであんなに小さい娘と会うのは新鮮です」
「まだ23歳だっていうじゃない〜?若くてうらやましい」
「…」

リュドミラは、束ねていた髪をほどきながら髪飾りを外す。
巻いてある艶やかな黒髪にブラシを通しながら、エステルの事について話していた。


カテリーナはブーツを脱いでも身長が高い。だいたい170pくらいある高身長で、リュドミラの方も167pくらいの女性にしては高い身長だ。
たぶんエステルと並んで立ったら、一番低いのはエステルだろう。


「ねー、明日は宮殿のお庭とかそういう所散歩しない?明後日は街ね。その時だけエフセーイ借りるわ」
「どうぞ」
「何、エフセーイと私がいちゃついでも眉一つ動かさないのねえ」
「貴女に嫉妬したところで何もないでしょうし。」
「つまんないの〜」

カテリーナは着ていた衣服の首元を緩めた。
さすがに室内では軍用ブーツは脱いだものの、やはり足が疲れたのか足をしきりに触っている。


「実際どう?シェーンブルー来てみて」
「…まだ来たばかりだからわかりません」
「そう?少なくとも、クレムリンの王宮より居心地はいいと思うわ」
「…」

カテリーナは黙る。確かに、なんとなくクレムリンの王宮よりは女官達も楽しそうな表情だった事を思い出す。

また、シェーンブルーの宮殿に向かう途中に馬車の中から街の様子をちらちら見たが、楽しそうに平民が働く姿も見ることが出来た。


「あと、ここのお部屋も。隅々までお掃除していあったりとお客をもてなす気持ちがこもっているわ」
「…確かに」
「クレムリンの宮殿には足りないものよね〜」
「…」

言い返せない、と項垂れるカテリーナ。そんな様子を見たリュドミラは大笑いをする。


「ま、帰ったら少しでもクレムリンの宮殿がここみたいに明るくなるようにしたらいいんじゃない?」
「…」
「ねえ、今誰もいないんだし敬語なくていいんじゃない?義姉さん」
「…うん」

カテリーナはベッドに寝転がる。
実はこの2人は、父親は同じで母親違いの姉妹だ。

「さすがに私たちが異母姉妹とはわからないでしょうね…。まあ、髪の毛一緒にしたらぱっと見似ているかもしれないけど」
「…」

リュドミラは、カテリーナの横に座る。

「ねえ、義姉さんも一緒に街行かない?」
「…行かない」
「どうして?」
「馬車の中でも見たし…あの人混みの中だと酔いそうだから…」
「ちぇ」

カテリーナもまとめていた髪の毛をおろしながら、ウトウトとする。

「まーったく、義姉さんったら。寝るならお化粧落としなさいって」

もう目すら開けない異母姉の頬をぺしぺし触りながら言う。そして、やれやれ、と言ったように化粧落とし用のタオルを洗面台に持って行って濡らす。そしてカテリーナの化粧を落としてあげるのだった。



*****


「そういえば、父様の時の同盟ってどういうのだったのかしら」

エステルは、バルタザールとリュドミラの前の皇帝が結んだという軍事同盟がどのように結ばれたのか気になった。

聞こうと思っても、一番聞けそうなバルト公は今書類の作成をお願いしている。他は特に政治に関わっていた重臣がいない為に自分で探しに来た。


執務室全体はほぼエステルの私物や書類しか置いていないが、机の横にある小さなチェストにバルタザールが使っていた書類などをしまっていた。


「何か同盟の書類とかそういうのないかしら…」

エステルはチェストの引き出しを開けて、書類などを全て出した。
書類を仕分けしながら、同盟関連の書類…正式なものではなく、試し書き用のものが見つかった。


「えーっと…これは私が15歳の時の…ユルドゥズ帝国と『帝国』が争っていた時期の終戦締結のものね。ここの同盟国は…」

ユルドゥズ帝国は、「帝国」やトリアノンよりも端っこにある少し中東のような雰囲気のある国だ。紀元前くらいのときはかなり栄えていたこともあるし、今もかなり大きな領土を持っている所だ。

先祖代々ユルドゥズ帝国とは戦争をすることが多く、父であるバルタザールの時も戦をしていたのを覚えている。父自体は戦に行かなかったものの、ほとんどシェーンブルーは負けて同盟国の力を借りてやっと停戦したらしい。


「ゲルマニクスとの戦さ中に仕掛けられたらたまったものじゃないわよね…このままユルドゥズが私たちをほっといてくれますように…」


実際、ユルドゥズは内戦が多く起こるらしく以前のシェーンブルー継承戦争でもエステルの味方にも敵にもならなかったくらいだ。自分の国を立て直すのに手いっぱい、がもう少し続いてほしいと切に願う。


「あ、あった名前。えっと、シェーンブルーはバルタザール6世。で、クレムリンも参加していたのね。クレムリンは、アンナ…」


この戦はユルドゥズ、シェーンブルー、クレムリンの戦のようだ。
クレムリンはシェーンブルー側についてはくれているみたいだ。

「このアンナって方がリュドミラ様の身内なのかしら…」

アンナと書かれた文字の横を見ると、苗字が書かれていた。

――アンナ・イヴァノヴナ。
リュドミラの苗字は、確かペトロヴナ。

「クレムリンも、基本世襲制よね…どういうことなのかしら」

誰かクレムリンの王族について詳しい人はいないのか、と嘆きたくなったエステルは、もう一枚の書類に目が行く。


その書類は、その戦の締結よりも前の。
エステルが9歳の時にシェーンブルーとクレムリンが結ばれた同盟の条約だった。

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