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そして、3時間ほど経とうとしていた。
あまり遅くなってしまうと、エステルも宮殿に帰り着くのが夜になってしまう。
ミゲルとアマーリアは療養先である、ゲルマニクスとバヴィエーラの境界にある郊外。
そこに馬車で向かっていった。
馬車が見えなくなるまで見送ったエステルは、乗馬服に着替え、帰り支度を始めた。
大体の片付けを終え、待っていたディアナの元へと行く。
「何事もなく終わってよかったな。あたし来た意味ねえわ」
「…いやいや、一応いてくれて助かったわ。私もブチ切れずに済んだし」
「キレんのかよ。怖っ」
ディアナは半分笑いながらエステルに声をかける。
エステルは自分の愛馬の「アスラン」の準備をするようにディアナにお願いした。
エステルは余った紅茶の茶葉を袋に入れ、乗馬用のコートのポケットに押し込んだ。
忘れ物がないかを確認し、二人は出発した。
「同盟関係を崩す…か。どうしたらいいのかしら」
「ん?」
「ミゲル王が言ったのよ。同盟関係を崩せ、と。何か動揺させるような事があれば…」
「動揺ね…。」
何か良い方法が…あるのか。
エステルは考えながら、今までのことを思い出していた。
「ん?」
エステルとひとつのことを思い出した。
それは、ゲルマニクスとの間の密約。少しの間だけの停戦している状態の今。
密約をシェーンブルーとゲルマニクスが結んでいる事がトリアノンにだけバレてしまえば…トリアノンとゲルマニクスは信用関係がなくなるのではないだろうか。
ゲルマニクスが裏切り者、となれば。
同盟は壊れるだろう。それと同時にシェーンブルーの方もゲルマニクスとの戦いに戻ってしまうだろうが…それでも、トリアノンだけでも切り離す事が出来れば。
「甘い策だけど、やってみる…しかないか。」
もうエステルは一人ではない。
イシュトヴァーンもバヴィエーラも味方なのだ。
今度こそ、ゲルマニクスとの戦いに、自分達の力で勝ちたい。
エステルは何が起こっても構わない、という気持ちで、
密約をトリアノンにバラすことを決めた。
乗馬服からいつもの青緑のドレスに着替えた彼女は、真っ先に執務室へ向かった。
そして渋るバルト公をなんとか説得して、ゲルマニクスとの密約が存在することをこっそりとトリアノンに匂わせるように働きかけた。
この選択が吉と出るか凶と出るか。エステルにはわからなかった。
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