小説 | ナノ


▼ 01

戴冠式の三日前。

エステルは戴冠式のマントの裾の長さを確認していた。2年前の時は男性用のマントを身に付けていたので、マントを引きずってしまっていたのだ。


さすがに歴代の皇帝陛下の着用したものだ。
自分のせいでボロボロにしてしまってはいけない。


女官長のフォティアに頼んで、引き摺らないように糸で軽くとめてもらっていた。

さすがに女性用のサイズで似たようなマントは用意できなかった。それに、これからまた自分以外に女性が王になる可能性がわからないから。

「とりあえず大丈夫そうね」

使用する宝石や装飾も破損や汚れはない。
すると部屋の扉が開き、エドヴァルトが入ってきた。


「エド。入浴は済んだ?」

先に入浴していたエドヴァルトは、濡れた髪をタオルでごしごし拭きながらエステルの近くへ来る。近づくと、お花のような石鹸とシャンプーの香りがする。


「うん。エステルは明後日の準備かい?」
「そう。あとはドレスだけね。何を着ようか迷っていて」

2年前は歴代皇帝の男物を着た。
ドレスでよさげなものがなかったし、ごてごてのデザインのものは正直動きにくいし、コルセットで締め付けるのが辛い。

イシュトヴァーンの時は、同盟国であるウィンザーの過去の女王の肖像画のドレスを参考にした。
レースが多くてフリルやリボンが重たい、古風なものだったが白色で堂々たる雰囲気のデザインだったのだ。


「ドレス…。ちょっと待っててね。エステル」

エドヴァルトは何かを思い出したかのように部屋を出ていった。

数分くらいして戻ってきたエドヴァルトは、大きな白い紙袋を持っていた。


「ドレスならこれを。見てくれる?」
「まあ。エドが選んでくれたの?」
「…まあ、見てみて」


エステルは紙袋を受け取り、中の物を出す。
丁寧に包装紙を外すと、1着のドレスが出てきた。


ミントグリーンがベースのシルクの生地に、アイボリーとゴールドのレースがついている。
肩がギリギリ見えるが、胸元の露出はそこまでない。胸元には金の糸で装飾してあり、リボン等がなくても華やかに見えた。

スカート部分はどちらかというとアイボリーの色がメインだが、白のフリルやミントグリーンの模様、白のリボンで上品に装飾されて上品な雰囲気のものだった。

ロココ調と少しだけ中勢時代のデザインがとてもあっている。エステルは一目見ただけで気に入ってしまった。


「これ、とても好みのデザインだわ!エドが用意してくれたの?」

エステルはニコニコしながらドレスを抱きしめた。シワにならないように注意しながら、シルクのなめらななさわり心地を堪能する。

エドヴァルトは何故か、苦笑するように言った。


「ううん、俺が選んだんじゃないよ」
「じゃあ、誰が選んだの…?私好みの素敵なドレス、エドヴァルトが選んだんじゃないのだとしたら…」

エステルはいろいろと考えてみた。
両親はエステルが父が戴冠前、母は戦の最中に病気で亡くなってしまった。妹は暗殺された。親戚は探せばいるだろうが、エステルの好みをよく知っている人となれば限られてくる。

「俺がこれを受け取ったのは去年だよ」
「…去年?ごめん、わからない…」
「秘密にしてて、って送り主から言われていたけど…仕方ないか。」


エドヴァルトはそこで一旦言葉を区切った。

「このドレスの送り主は。ミルカだよ」

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