今日は4月の始め。朝早くに目覚め鍛練をし、朝食を食べる。いつも通りの光景。だが今日は少し違った。いつもはそこにいない者がいたのだ。
「山犬、何故ここに?」
「謙信公に呼ばれたのじゃ」
素っ気なく返された言葉に文句を言ってやろうと口を開いたところ綾御前さまに睨まれたからやめることにした。その間も山犬はこちらなど振り向きもしなかった。
「いつもはキャンキャン吠える山犬が今日は大人しいな」
「いつも?いつも煩いのはお前じゃ」
やっと言葉こそ返ってきたがそこにいつもの覇気はなくて
「お前、熱でもあるのか?山犬らしくない」
「……なぁ兼続。もし、もしもじゃぞ…儂が好きと言ったらどうする?」
「なっ?山犬!?」
「っ儂は謙信公の所に行く!これを受けとれ」
顔を真っ赤にさせながら去っていく政宗をみながら立ち尽くした。山犬が私を…?とうとう私の愛を受け入れたというのか?
ひとまず顔が緩みそうになるのを抑えながら(実際は抑えられてないが)渡された手紙を開けることにした。
『 馬 鹿 め ! 日付を確かめよ』
「な、な、なんたる不義ぃぃぃ!」
――――
遠くから兼続の叫び声が聞こえた。
「引っ掛かりおって、バカめ」
なんて悪態を吐いてみたもののあの言葉に嘘なんかなくて。普段なかなか素直に気持ちを言えない自分が素直になれる日。きっとあの男はそんなこと知らないだろうが。
来年の今日は『大嫌い』くらい言ってやろうかとその光景を想像して微笑んだ。
エイプリルフールの罠
言葉にだした本当と文字に書いた嘘。きっと貴方は気付かない。