「私は山犬が嫌いだ」
そう言えば目の前の男は一瞬傷ついた顔をして、それからすぐいつもの顔に戻りいい返してきた。
「儂もイカなんか大嫌いじゃ!バカめ」と。
先に自分から言っておいて、嫌いと言われたことに無償に腹がたった。
「別に構わん。私は山犬が大嫌いだからな」
「っ!儂だってお前にどう思われようが……っ」
そこで男の言葉は途切れた。正確にいえば途切れさせたのだが。
「んっ…、何をする!」
「煩い口を塞いだまでだ」
「だからと言ってこんなこと…そんなに儂を傷つけたいのか?そんなに儂のことが嫌いなのか?そんなに……」
そう一気に捲し立てた男の顔は今度は傷ついた顔を隠すことはなく哀しみで歪んでいた。そのうち一つしかない大きな目から滴が零れた。自分はきっとこの顔が見たかったのだろう。口角が吊り上がったのが自分でもわかった。
「今のお前は嫌いじゃない」
私を思い傷つくお前はな。そう言うと今度は驚きで目を見開いた。その驚愕した顔を横目に、私はもう一度男に口づけた。
歪んだ愛情
嫌いな訳じゃない。ただ自分の言葉で傷つく貴方をみたいでけ。