愛しい人の背にあわせ、少し屈んで口づけを交わした。本当はそれだけでは足りないがこれ以上をしたら自分はここから離れられなくなると、そこで思いとどまった。

「……いってきます」

やっと言えた言葉はそれだけだった。寧ろ、悔しそうに下唇を噛み俯いてる彼を前に言える言葉はそれくらいだ。
そんな彼を抱きしめてあげたくても自分にその資格はなく、これ以上辛そうな彼はみたくなくてここを去ろうと足を踏みだした。が、彼の手によって引き戻された。

「政宗殿?」
「………………」

彼は黙ったまま。俯いたまま。どうせなら『行くな』といつもの調子で言ってくれたらいいのに。そうしたら自分は…。なんて、そんな事はありえないのにそれでも望んでしまう。最後の最後まで自分はなんて卑怯なのだろう。

「………すまん」

そう言い少し顔をあげた彼の目は赤くなっている。それをみて自分も目の奥が熱くなった。謝るべきは私なのに。

「政宗殿。私のことは忘れてくれてかまいません」

こんな最低な私のことは忘れた方が身のためだから。これが今私が貴方にできる精一杯。
暫くの沈黙の後、力なく彼の手は離れていった。




最後のお願い

さよならも告げずに去る私をどうか早く忘れてください。




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