「少しよろしいでしょうか?」
幸村に真剣な顔つきで声をかけられ、そのまま部屋へ入れることにした。
「それで儂に何のようじゃ?」
そう聞いてみたものの返事はない。心なしか元気がないようにも思えた。
「用事がないのなら儂はいくぞ」
話し出すのを待とうとも思ったが今は一緒にいたくなかった。自分がこの男に特別な感情を持ってることに気付いているから。そしてそれは叶わないということも。
「お待ちください!なぜ、なぜ政宗殿は私を避けるのですか?」
「っそれは……」
それは幸村との微妙な距離が嫌いだから。手を伸ばせば届きそうなのに伸ばすことは許されない。なら自分が離れればいい。
だがこんな思いを口に出せる筈もなくただ黙りこんだ。
「政宗殿は幸村が嫌いですか?」
「嫌いなわけがなかろう!」
「……政宗殿はお優しい。ですがはっきりと言っていただければ、」
「えぇい!黙らぬか!儂は嫌いじゃないと言っておるだろうに」
「あの、政宗殿?」
「儂はお主が好きじゃ!幸村は儂のことが嫌いなのか?」
幸村の顔が一気に赤く染まった。たぶん自分の顔も負けじと赤いのだろう。あぁ、自分は何を口走ったのかと今さら後悔した。
「私も政宗殿のことをお慕いしています!」
「………そうか、ならよい」
それだけ言って部屋を出ることにした。あのままいたらどうかなってしまいそうだったから。
とりあえず孫市や小十郎に見つかる前にこの顔をどうにかしなければ…。それにしても
「手を伸ばせば案外簡単に届くやもしれぬな」
君との距離
踏み出したならすぐそこに。