「ただいま…っ!?」
「おかえりなさーい!」

ドアを開けた瞬間に勢いよく飛びついてくる影。
俺は避けることもかといって受け止めることもできずに突然の奇襲に為す術なく無様に尻もちをついた。

「いってぇ…こら、リン!急に飛びかかってくるなっていつも言ってるだろ!」
「クゥン…大丈夫ですか、ご主人」
「まあ、大したことないけど…」
「…ごめんなさい」
「あ、いや、俺も言い過ぎたよ、リンは俺を出迎えようとしてくれただけだもんな」 
 
耳としっぽを垂れてシュンと肩を落とす姿を見ているとつい甘やかしてしまう。
今日こそはビシッと言ってやろうと思ってたのになあ…。
自分の意思の弱さに苦笑しながらリンの頭を撫ででやると、しっぽがちぎれるのではないかとばかりに振り回し嬉しそうに頭を擦り付けてくる。

あー…可愛いなチキショウ。






「ほれ、飯」
「ワン!」

お腹がすいていたのか大きな瞳をキラキラと輝かせ、しっぽをぶんぶんと振り回している。
それでも主人に従順なリンは俺がよしと言うまで決して食事に手をつけない。
リンはペットじゃなくて家族なんだからそんなの気にしなくていいのにと思いながらも俺が用意した飯(今日の献立は白米と大根の味噌汁、トマトと水菜のサラダ、煮込みハンバーグだ)をじぃーと見つめ、ウズウズとじれったそうに俺の声を待つリンが可愛くてこの習慣をやめられないでいる。

「食べていいよ」
「いただきます!」

元気よく手を合わせてウキウキと箸を手に取るリン。
家に来たばかりの頃は皿に直に口をつける、いわゆる犬食いをして俺を驚かせたものだが食器の使い方を教えてやってからはちゃんと箸やフォークを使って食べるようになった。
最初は慣れない食べ方にストレスを感じていたみたいで可哀想だったけど、さすがにあの食べ方を許容するわけにはいかなかった。マナーとかそれ以前の問題で。
金髪碧眼の美少女が四つん這いで口の周りを汚しながらぴちゃぴちゃと皿に小さな舌をのばす姿(皿の中身はミルク、赤い首輪のオプション付き)を想像してほしい。
そこはかとない犯罪臭を嗅ぎとったのは俺だけではないはずだ。

「ん〜、美味しい!やっぱりご主人のご飯は世界一ですね!」
「褒め過ぎだって」

とは言いながらも我ながら料理の腕前は結構なものだと思っている。
ひとり暮らしでずっと自炊していたからというのもあるが、こうして本当に美味しそうに食べてくれるリンを見るのが嬉しくてついつい張り切ってしまうのだ。

「リン、ご飯粒ついてるぞ」
「わう?」
「ほら、しょうがないな」

リンの頬についた米粒をとってみせてやると、リンは照れ臭そうにくふんと鼻を鳴らしてから食事を再開した。





食後のまったりとした空気の中、ソファに座って携帯をいじる。画面では愛くるしい瞳をしたシーズーがこちらを見上げている。
今朝の通勤中に見かけて写真に納めたのだ。もちろん飼い主の許可をとって。
時々こうやって散歩をしている犬を撮影させてもらい、携帯のわんこフォルダはとんでもない容量になっている。
あー、やっぱ犬って最高に可愛い。

「ご主人っ!!」

背後から低い唸り声が聞こえ、びくっと肩を竦ませる。

「な、なに?」
「なにじゃありませんよ!ご主人の浮気者!誰なんですか、その女は!」
「いや、女って…」
「ご主人はリンのご主人じゃないんですか!?それなのにリン以外の女にデレデレするなんてっ」
「女っていっても犬じゃないか」
「リンも犬です!っていうか犬でも人間でもリン以外の女の子を好きになっちゃだめー!」

犬のルーツは狼などの捕食動物なので実は結構独占欲が強い。リンも例に漏れず、飼い主に近づく女(いや、犬なんだけどね)に敵愾心むき出しだ。
てか俺はこのシーズーがメスだってことも今知ったのですが…。

「リン、落ち着いて」
「バカバカ!ご主人のバカ!」
「リン!」

きゃんきゃんと吠え続けるリンの肩を掴み、無理矢理こちらに意識を向かせる。
リンはいきなりな俺の行動に驚き思わず怒りをひっこめた。

「ご主人?」
「俺はリンをただの犬として見ることはできないし、俺の特別な女の子はリンだけだ。だから張り合う必要なんかないだろ」

リンの瞳をまっすぐに見つめ、ゆっくりと言い聞かせる。

「リンは犬ですよ?」
「犬とか人間とかじゃなくて、俺にとってリンはリンなの!」
「ご主人…」

リンは普通の人間の女の子ではない。
顔の横ではなく頭の上に耳があって、ふさふさのしっぽを持っている。
俺を主人と呼び、絶対服従の姿勢を崩すことのない姿は従順な飼い犬そのものだ。
それでも俺はリンを犬として見ることはできないし、他の犬はもちろん人間の女とも同列に置くことはできない。
自分でもうまく言葉にできないのがもどかしいが、はっきり言えることは俺がリンを誰よりも好きだってこと。

「俺が好きなのリンだけだよ」
「…なんか丸め込まれた気もするけど、特別って言ってくれて嬉しかったから許してあげます」

そういって俺に頬ずりしてくるリン。
どうやらお姫様の機嫌はなおったようだ。ほっと胸をなでおろす。
これではどちらが主人かわからないな。
苦笑しながらリンの髪を丁寧に撫ででやるとリンはパタパタとしっぽを振り、見てるこちらが蕩けてしまいそうな極上の笑みを浮かべる。
あー癒されるなあ。
ふわふわとした気持ちでリンを撫でまわしていると不意にリンの頭が俺の手から離れた。
あ、ヤバい。このパターンは…

「ご主人…」

リンは甘えた声で俺を呼ぶと、ごろんと仰向けに寝転がってこっちに物欲しそうな視線を送ってきた。

「ご主人、もっと撫でてください」
「…………」

っ……やっぱり!!
犬は信頼した相手にお腹を見せて甘えるという習性がある。
自分の無防備な姿を見せて相手への全幅の信頼を示し、撫でてもらうことで愛情を確かめるのだ。
これが本当にただの犬ならなんの問題もないんだが、リンは耳としっぽ以外は人間の女の子の姿をしている。そんなリンのお腹を撫でさするなんて…

(そんなの無理に決まってるだろ…っ)

「ご主人〜、はやくぅ〜」

リンが媚びた声をあげる。それは耳に注がれた甘い毒のように確実に俺の理性を蝕んでいく。 
 
(落ち着け、俺。リンは自分をただの犬だと思っている。これはただの飼い主への親愛の表れであって決してやましいお誘いじゃないんだ。純粋に俺を信じてくれているリンをいやらしい目で見るなんてそんなのリンへの裏切りじゃないか)

若干今さらな言い訳を必死に自分に言い聞かせ、なんとか理性を保つ。
本当ならしっぽを巻いてリンの前から逃げ去りたいところだが、以前にリンへの愛撫を拒絶した時に見せたリンの傷ついた表情を思い出すとそれもできない。どこまでもリンに甘い男だ。
そろそろと躊躇いがちにリンのお腹に手を伸ばす。

「ふふ、くすぐったぁい」

くすくすと笑いながら体を捩るリンは凶悪なまでの可愛さだ。
落ち着かない気持ちのままリンのお腹を撫で続けてやる。リンはうっとりと目を細めて俺に身を任している。

「リン…」
「ご主人…だぁいすき」
「リン!」


リンが甘く微笑んだ瞬間、頭の奥で理性の箍が外れる音がした。
本能の命ずるままにリンのふっくらとした唇に齧り付く。

「んぅっ!?はっ、んむ…ちゅ」
「はぁ、んっ…リン…っ」

驚いて身を竦ませたリンに構わずそのまま強引に舌を口内に捻じ込み、縮こまるリンの舌や歯列、上顎まで舐めまわす。

(気持ちいい…リンって甘いなあ)

思うままに口内を味わっていると次第にリンの体からも力が抜けていく。
されるがままになっていたリンの舌をいやらしく絡めとり、時々じゅっと音をたてて吸ってやると大げさなくらいに体を震わせた。
お互いの口内にどちらのものともつかない唾液が溜まっていき飲み下しきれなかったものが二人の唇からこぼれていく。

「ふぅっん…はぁ、ご主人…っ」
「リン可愛い…すっげー可愛い」
「ふぁ…ん」

最後にちゅっとリップノイズを立てて唇を解放してやる。
顎から首にまで流れた唾液の跡を舌でなぞっていくと華奢な身体は面白いぐらいに反応してくれた。
そのまま首筋に強く吸い付いてリンの白い肌に鮮やかな紅を咲かせる。
自分がつけたその色彩に満足すると鎖骨を軽く食みながらリンの服を脱がせていった。

「ああ、やっぱり着けてないんだ」
「だ、だって…」
「ふふ、今は好都合だけど」

リンはブラジャーが嫌いで何度言っても着けようとしないので上着を肌蹴させるとすぐに形の良い乳房の上にちょこんと色づく頂を拝むことができた。
小さいながらも自分とは明らかに違う曲線に情欲をそそられる。
たまらずその頂にむしゃぶりいた。

ちゅ、ちゅるっ、はむ
「きゃんっ…ごしゅ…っ、やだ、リンの、おっぱい、ああぁぁん」
「可愛い声…もっと聞かせて」

更なる快感を与えるべく音を立てて吸い付いたり軽く歯を立ててみたり唇だけではむはむと挟み込んでやる。
もう片方の乳房は掌全体で包み込んで柔らかな感触を楽しみながら指の股の部分で乳首をはさんで刺激した。

「やだ、吸っちゃ…おっぱい吸ってもリンは、お乳でないですよぉ」
「今はね、そのうちでるようにしてあげるよ」
「なん、ですかそれ、ひゃあん!」
「乳首勃ってきてるよ。やらしーな、リンは」
「や、それ、だめ、あん、あぁ、くぅん」

硬くその存在を主張しはじめた乳首を舌先でぐりぐりと押し潰し、もう片方の乳首は指できゅっと摘みあげる。
リンはそれぞれ異なる快感で追い詰められ、初めて与えられる感覚に従順に啼き声をあげることしかできなかった。
初な反応を返す彼女が愛おしくてもっと乱れさせてやりたい。

「はあはぁ…ん、ごしゅじ、は…」
「ん?」

リンが喘ぎながらも言葉を紡ぐ。

「ご主人は、リンのこと、ママだと、思ってるんです、か?」
「へ?」

唐突かつ素っ頓狂な発言に思わず愛撫していた手を止めた。

「は?え、なに、ママ?」
「だってリンの口の中を舐めてくるし、おっぱいだってお乳でないって言ってるのにぃ…」
「え、あ、ああ…そういうこと」

リンの言わんとすることを理解して脱力してしまう。
実は人間だけではなく犬にとってもキス、というか口を舐める行為は親愛の情を表すコミュニケーションだったりする。
だが人間とちがってその対象は自分より上位だと認めた相手、または母親の犬であり恋人や夫婦がするものではない。
つまり俺のディープキスや胸への愛撫はすべて小犬が母犬に甘えるようなものとしてリンには映っていたわけだ。それって…

「すっげーへこむわー」
「ご主人?」
「はあー…あのさ、あれはキスっていって…」

虚しくなりながらもなんとか気持ちを立て直し、人間のキスの意味をリンに説明する。リンは目をぱちくりさせながらじっと聞いていた。

「つまり、俺はリンのこと母親としてではなく、もちろんペットとしてでもなく恋人として好きなの!愛してるの!わかる!?」
「…恋人?」
「なにその反応」

薄々わかっちゃいたけど、やっぱりリンにとって俺って飼い主で家族でしかないってことだよな。
今まで俺が言葉や行動でリンに伝えてきた想いもペットへの愛情としてしか伝わっていなかったのか。
あーヤバい。これは再起不能かも。

「あの、ご主人?」
「はあー…」
「ご主人、あの、リンなんか悪いこと言いましたか?」
「いや、リンは悪くないよ。俺が不甲斐ないってだけの話…はあ」
「そんな…ご主人は不甲斐なくなんてないです!」
「ありがとう、リンは優しいな」

こんな優しくて汚れないリンに俺の欲望を理解しろってほうが無理なのかもな…。
俺が自分の世界に閉じこもり打ちひしがれているとリンが俺の頬にそっと手を添えこちらを覗き込んできた。

「リン?」
「ご主人、リンは優しくなんかないです。ご主人の言うことを理解できずに悲しませてしまう駄目な子なんです」
「ちがう、リンは悪くな、」
「ううん、やっぱりリンが悪いの。だからご主人…リンを躾けてください」
「…え、」

しつけ…って、躾だよな。
え、なに、どういうこと?
リンの発言の意味が分からず戸惑っていると、リンはさらに言葉を重ねてくる。

「ご飯の食べ方もお洋服の着方も最初はわからなかった。でもご主人が教えてくれたから覚えることができました。だから今度はリンに恋人を教えてください」

リンのまっすぐな瞳を見つめ返す。
本当ならこのままリンを汚れとは無縁の場所で誰にも触れさせずに無垢なまま守ってやるべきかもしれない。
それでも、俺は…

「いいの?さっきよりも酷いことリンにするかもしれないよ?」
「いいんです。ご主人だったらリンになにしてもいいんですよ。恋人とか難しくてよくわらないけど、リンだって特別な人はご主人だけなんですから」
「っ…リン」

それでも俺はリンが欲しいんだ。 



 
 
 



わんこのリン
と待てのできないご主人様。


ネコミミとかウサミミの人気に嫉妬してやった。


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