僕が小学生の時、通学路の途中で蜥蜴の死体を見つけた。
学校に行くまでの道の途中に小さな商店とアパートが並んでいるところがあって、その隙間にある白いコンクリートの上でソイツは死んでいたんだ。
僕はその蜥蜴がなんとなく気になって、毎日こっそり見に行った。
蜥蜴は日が経つにつれて少しずつ色が黒くなって、干からびて皮がどんどん薄くなって、その皮が骨の間に沈んでいくようになった。少しずつ白骨が覗いて、まるで恐竜の標本のように綺麗な蜥蜴の骨が見えた。
それからも蜥蜴は雨風に晒され続け、今度は骨が一本一本なくなっていき、骨と少しだけ残っていた皮が消えて、最後には黒いシミだけがそこに残った。
白いコンクリートの上の小さなシミが蜥蜴だと知っているのは自分だけ。その事実は当時の僕にとって誰にも教えたくないとっておきの秘密だったんだ。



















情事後の気怠い熱気が残るベッドの上、先に眠ったリンの額にそっと触れる。
汗ばんだそこは掌に湿った冷たい感触を伝えた。もう少し時間が経てば汗もひいて元のすべすべとした手触りに戻るだろう。
……少しつまらない。
寝顔より僅かに視線を下げれば首筋と鎖骨の窪みがカーテンから漏れる幽陽に青白く照らさている。
そこは先ほどまでの行為が夢の中の出来事だったのではと疑いたくなるほどに、なんの汚れもなく真っ白だった。そしてそれはシーツに隠された部分も同じ。
どれだけ深く刻んでも薄い被膜を隔てた交わりで、僕の痕跡はなにひとつリンに残らない。
これからも、きっとそれは変わらなくて、

「…………は」

不毛な恋だと思う。
それでも選び取ったのは自分で、そこに何の不満も後悔もないのだけれど。

少しずつ失われていく熱を惜しむようにリンの額を舐めながら、僕はいつかの蜥蜴を思い返していた。
この恋がいつか風化して形を亡くした時、果たしてそこには何が残るのだろうか。

シミ




残したい話。「さあ、きずを飾って」と対になっています。なんとなく近親設定のつもりで書いているけど、他人でもいけそう。
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