向日葵とはぐれた日(2)





それは俺の甘さが招いた事件だった。

黄瀬が夜遅くまで残って練習しているのを青峰は知っていた。青峰も遅くまで残って練習をしていたから。よく黄瀬は天才だとか周りから言われるが青峰はあまりそうだとは思わなかった。確かに天才だが黄瀬は努力をしている、そして黄瀬の努力の結果を天才だからの一言で片付けてしまうのを青峰は好まなかった。


「二年の先輩達が黄瀬に目をつけてるらしいな。青峰、気をつけろよ」
赤司が青峰に言った。なぜ黄瀬ではなく俺に言うんだと聞けば、黄瀬はいつもお前のそばにいるじゃないかと赤司は答えた。時々、いやほとんどだが青峰は赤司の言ってる意味が分からない時があった。

黄瀬は敵が多い。顔も良いしスタイルも良い、だから女子にモテる。そして何よりも敵をつくりやすい原因は黄瀬が何でもコピーできてしまうからだった。青峰からすればコピーされてしまう方が悪いと思ったが、本人は悔しいのだろう。時間をかけてつくりあげたものがあっという間にコピーされてしまうのだから。

「黄瀬におとなしくされても困るからね、まあアイツはそう簡単におとなしくならないだろうけど。だから青峰、お前が黄瀬を守れ」
「はぁ!?…めんどくせー」
「黄瀬は嫉妬されることに慣れすぎてる。だから何を言っても多分駄目だろうな」
いかにも嫌そうな顔を隠せず、それを見た赤司は鼻で笑った。
「これはお前のためにも言ってるんだぞ?」
また赤司は意味の分からないことを言う。頼んだぞ、と青峰の肩をポンっと叩き赤司は消えた。

それから何日かが過ぎた。赤司に忠告され青峰なりに警戒してはみたものの黄瀬に対する嫌がらせは無かった。そして何よりも青峰は黄瀬の能天気さに警戒してる自分が馬鹿らしく思えた。
「赤司の考えすぎじゃねーの?」
青峰は油断していた。そして事件はおきた。



誰もいなくなった体育館倉庫で黄瀬の泣き声が小さく響いていた。
「あ、お、峰っち、ごめん…」
「…黄瀬、大丈夫か?」
大丈夫なわけがない、青峰は分かっていてもそう問いかけるしかなかった。ほぼ裸の状態の黄瀬。手や太股には精液らしきものがついていた。黄瀬はもちろんだが青峰も混乱していた。
「あ、タオル…拭けよ。自分で拭けるか?」
「ありが、とう…青峰っち。ありがとう大丈夫だから。でもごめん…俺を、見ないで…本当、に、ごめん……。」
ただひたすら謝り続ける黄瀬を見て、青峰の怒りがこみあげてきた。どうしてお前が謝るんだ。青峰は自分と黄瀬との間に大きな壁ができたように感じた。
「…分かった。俺は扉の外で待ってるから。」
青峰が歩きだした瞬間、後ろから「あ」と声がした。何かと思い振り返ると体制を変えようとしたまま動けないでいる黄瀬がいた。
「黄瀬?」
「…あー……アハッアハハ…中に、出されちゃった…みたい」
そのままペタンと座り黄瀬は涙を流した。青峰が近づくと大丈夫だから、大丈夫だからと黄瀬は何度も訴えた。
「…自分で中のもん出せんのかよ」
「……………」
「出来ないからなら出来ないって言え。俺がする。見ねーから安心しろ」
青峰が黄瀬の頭を撫でると、黄瀬は一瞬ピクッと体を硬直させた。しかし青峰の手の平の温かさにふれ、また静かに涙を流した。ごめんなさい、黄瀬がまた謝るともう謝るなと青峰は言って黄瀬を抱きしめた。「うっ」
黄瀬の中には精液があったため指は最初のきつい所を過ぎればするりと入った。処理は俺がすると言ったものの、正直どうすればよいのか分からなかった。かきだすようにすれば良いのかと思い、とりあえず指を進めると精液が少しずつ出てくるのが分かる。黄瀬の中は当然だが熱く、そして精液によってぐちゃぐちゃだった。その気持ち悪さに時々腹がたつが一番気持ちが悪いのは黄瀬だ、青峰は早く黄瀬をこの気持ち悪さから解放してやりたかった。指を二本にして中を広げようとするとまた精液が出てきた。指がするりと入り、そして二本も入るのもあの男達のせいだと思うと殺意がめばえてくる。


「…多分、大体は出た」
「ん、ありがと…」
黄瀬は青峰の顔を見ようとしなかった。俯いたので顔は見えなかったが耳が真っ赤であるのが分かる。
「青峰っち、このことは誰にも言わないでね」
「あたりめーだろ」
そう言って青峰は部屋を出た。部屋を出た瞬間、我慢していた怒りが爆発し近くにあったバレーボールを蹴り飛ばした。クソッ、そう呟いて青峰はその場にしゃがみ込んだ。おきるはずじゃなかった事件がおきてしまい、自分の甘さを恨む。おそらく中で一人で泣いているであろう黄瀬のことを考えると、青峰の胸は張り裂けそうになった。
黄瀬の着替えが終わり二人は一緒に帰ったが会話はなかった。明日は学校休むね、本当にありがとう、黄瀬はそう言って自宅に入っていった。
「青峰、その傷はどうした?」
青峰の腕の傷にいち早く気づいたのは赤司だった。一応バレないように気をつけてはいたものの、やはり赤司には適わない。
「そういえば今日は黄瀬も休みだね。…何か関係があるのか?」
ねーよ、青峰はそう言って赤司から目を逸らした。赤司はそれ以上は追及してこなかった。
「そういえば。実はこんなものを拾ったんだ。多分黄瀬ならこれについて何か知ってると思うから。黄瀬に届けてやってくれ」
赤司がカバンから取り出したのはズタズタに壊された携帯電話とデジタルカメラ、そして綺麗に折られたSDカードだった。また赤司の言うことが理解できない。青峰は休み時間にこのことを黄瀬にメールした。黄瀬からは「それは捨てておいてほしい」とのことだった。ますます意味が分からない。

青峰はその日の帰りに黄瀬の家を訪れた。元気そうではなかったが昨日よりは顔色もよく、何よりもちゃんと黄瀬の顔を見れて安心した。
「青峰っちありがとう」
「おう」
青峰はまだ自分と黄瀬の中にある壁を感じていた。本当は自分が少し拒絶されているのも知っていた。
「黄瀬」
「…何?」
「俺はちゃんと待ってるから。だから焦んよ、お前は頑張りすぎなんだよ」
ごめんね、本当にごめんなさい、そう何度も言う黄瀬の声は震えていた。頑張らなくてもいいから、本当は嫌だけど俺のことを嫌いになってもいいから、だから前のように笑ってほしい。そう願いながら青峰は黄瀬の家をあとにした。



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