運命も望みも夢も





しとしとと雨が降っていた。今日は湿ったような変に暖かい日だったので、赤司はやっぱりなと思いながら窓の外をぼんやりと眺めていた。

「あーかーしっち」
教室の扉の方から声がした。黄瀬の声だ。

時は3月で明日には卒業式があった。廊下では卒業式の会場を準備している音や教師たちの話し声のおかけで少し騒がしかった。しかし赤司はその騒がさは嫌いではなかった。逆に居心地が良かった。…いつからだろう、騒がしさに慣れてしまったのは。

「赤司っち、何でまだ教室に残ってるんスか?」
「日誌を書いているんだよ。明日で卒業だっていうのに運悪く俺の番までまわってしまってね、ついてないね」
黄瀬はフフっと笑って俺の前の席に座った。体はこちらに向け、俺の書いた字を見つめている。
「…あ、そういえば。卒業式が終わったあとにバスケ部の三送会があるっスよね?俺、それ行くっス」
「…意外だな」
赤司は動かした手を止めて顔を上げた。黄瀬は赤司の発言に驚いたような顔をしていた。

「青峰が来ないからお前も来ないのかと思ってたよ。…黒子は当然来ないしな。」
「………そりゃああの二人は大好きだけど…、俺はバスケ部も好きっスよ。」
赤司はそうか、と言って再び手を動かした。バスケ部の仲はあまり良いものとは言えなくなっていた。特にレギュラーメンバーが。仲が悪いとまではいかないが嫌な緊張感が漂っていた。本人達はもちろん分かっていたし、それは他の部員達にも伝わっていた。他の部員達は腫れ物に触るように彼らと接していた。
俺達は仲良しこよしのチームじゃない、勝つのが宿命のチームだと赤司は考えていた。緊張感が漂っていても試合に影響は出なかった。当然かのように勝利し、何度も優勝杯を持ち帰った。しかし勝利するにつれてその嫌な緊張感は高まっていくばかりだった。


「…雨止んだっスね。あ!虹、赤司っち、あそこに虹が出てるっス!」
どれどれと赤司も身を乗りだす。空には美しい虹が出ていた。
「うわーっ、綺麗っスね!」
虹と同じくらいにキラキラと輝きながら笑う黄瀬を見ると、赤司もつい微笑んでしまう。このように黄瀬につられて微笑んでしまうことが昔何度もあった。

「どうして虹は美しいんだろうな」
「え?」
「あんなもの、ただの七色の集まりじゃないか」
雨の水滴がプリズムとなり、それを通して七色に分かれるだけだ。虹というものはそういうものだ。それなのになぜこんなにも美しいんだろうか。

「きっと虹は消えるから美しいんだろうな」
バスケットボールをドリブルする音、走る度にバスケットシューズが鳴らす音、声が、息が、全ての音を俺の耳が覚えている。俺はその音が好きだった。光る汗がキラキラと輝いていて綺麗だと思った。あの時は美しかった。

「…そうかもしれないっスね」
黄瀬は虹を見るのを止めて俯いてしまった。そして赤司を見つめた。
「でも俺はみんなで見る虹だから綺麗なんだと思うっス」

そう答えた黄瀬の瞳は真っ直ぐで美しかった。キラキラと輝いている。長い睫毛には少しであるが水滴がついていた。赤司は黄瀬らしい答えだと思った。そうだな、応えれば睫毛についていた水滴が一つ二つとはじけて落ちた。

「明日は…卒業式っスね」
「そうだな」
「もう俺達は昔みたいにはなれないんスかね」
「…そうだな」

もう戻れないよ、赤司はこの言葉を心の中で殺した。
「…そうだな、でも虹はどこにいたって空を見上げれば見えるじゃないか。見る場所が変わっただけだ。大丈夫、俺達が見る景色は昔と何一つ変わらないよ」





題名:休憩


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