その日の放課後。からからと自転車を押して歩く。夕暮れと同じ色したそいつは意味ありげに黙っていた。なんで、私自転車あんのに歩きなんだろう、とかこいつ同じオレンジだからオレンジに透けてハゲにならないかななんて考えているとぽつり、と隣で口が開かれた。
「俺さ、ちっちゃな頃から片思いしててさ、いや、それより前かな」 「うん」 「で、この年になってもさ言う勇気も出なくて、言わなくちゃダメとは分かってるんだけどさ言えなくてさ」 「・・・あはは、随分と使命感に駆られた恋だね」 「かもねー、ずっとずっと昔から決めてたことだから」 「ふうん」
影が一つ、わたしよりも遠くなった。
「でさ、そいつが違う男に言い寄られてるって聞いて黙ってるのは男じゃないじゃん?」 「・・・」 「いや、今までずうっと言えなくて男じゃないとか無いと思うんだけどさ。俺ね」
西日が彼の頬を赤く照らす。
「なまえの事が好きなんだ。ずっとずっと」
泣きそうに笑うもんだから、私もなんだか泣きそうになってしまった。 私は手を差し出す。意図を察したのか彼もまた手を差し出す。太陽の柔らかい光と私の手が握られた。
「私も好き。−−」
目が覚める。現実だと理解したとき私は両の手で目を覆う。下唇を噛んだけれどそれは意味もなさなかった。とめどなく涙があふれる。感情の波が私を襲った。どうしようもない感情に私は飲み込まれてしまった。隠しきれない声が歯の隙間から洩れて、溢れる。
「なまえちゃん?」
懐かしい、でも違う呼び方をする声が私の鼓膜を揺らす。ぎし、ぎしと床を踏みしめる。
「泣いてるの?・・・夢見でも悪かった?」
私の頬を、唇を指で優しく撫でられる。傷になるよ、というけれどそれでも力を緩める事が出来なかった。腕を引かれ、起き上がらせられる。すっぽりと私は彼の両腕に収められてしまった。固まり切れていないかさぶたが剥がされるような痛みを感じる。とんとんとん、と子をあやす様なリズムに痛みはだんだんと激しくなって堪えられなくなってしまった私はわんわんと子供のように泣き始めた。咽び、泣いて、叫んだ。
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