彼の名前は佐助さん、というらしい。話を聞くに彼は戦国時代からこの世界にタイムスリップしてきたようだ。武田信玄、真田幸村という名前に目を引ん剥いたのは言うまでもない。彼は私が何か知っているんじゃないかと睨むけれど、残念ながら一切私は何も知らなかった。そうして数日ほとほと私は困り果てていた。一切何も口にしないのだ。水でさえ毒を入れてるんじゃないかなんて疑われるし、目の前で毒見して出した料理もいらないという、睡眠も碌にとっていないようで彼では無いと分かっているのに彼がまた居なくなってしまうような不安に駆られた。そうして、また数日とうとう佐助さんが倒れた。私はもう顔面蒼白だったのは間違いないだろう。水も飲まない、ご飯も食べない、眠らない、死んでしまったって可笑しくは無い状況だった。救急車、と思ったけれど彼には身分を証明するものがない。このご時世一切身分を証明するものが無いと言うのはおかしい。私は一人で面倒を見切る決心をした。倒れた彼は明らかに衰弱している。恐らく脱水症状だけではなく栄養失調にもなっているんじゃないか。なにか、飲める栄養になるもの、と考えると咄嗟に出てきたのはあの体に吸収しされやすいスポーツ飲料だったが買いに行く手間も惜しいので、確か生理食塩水に砂糖を混ぜれば良かった筈だと思いだしたので慌ててキッチンに向かい、空きのペットボトルで作る。彼のもとへ持って戻り、口に少量ずつ注ぐも中々うまく入ってはいかなかった。これじゃまずいと考える。脱脂綿か何かに水を含ませて口に当てようかと考えたけれど本人が吸わなければ体に水は入って行かないのではないか。となると口うつし以外選択肢は無いのではないだろうか。迷っている暇はないと水を口に含み、佐助さんの顎を上に向かせ、口を開けさせて口へと水を押しこむ。数回繰り返し、ボトルの三分の一は減っただろうかという時、佐助さんのまぶたがピクリと動き、私を捕らえた。気がついたとあって私は心底ほっとした。

「佐助さん、大丈夫ですか、分かりますか?」
「・・・アンタ、何やってんのさ・・・」
「佐助さん、倒れたんですよ、だからどうにかしなきゃって・・・」
「・・・・・・そのまま放っておけばよかったのに」

佐助さんはそう吐き捨てた。私は口をつぐんだ。彼はなんて言った?飲まず食わず眠らずで倒れて放置してたら間違いなく死んでいただろう。

「・・・そんなこと、そんな放っておいたら死んじゃうじゃないですか」
「死にたかったんだよ」

彼は起き上がって真顔で私にそう言い放つ。そうしたら、元の世界に帰れたかもね、なんて彼は笑ったのだ。初めて見た彼の笑顔だった。彼の言葉に私の心がざわついた。どうしようもない怒りがこみ上げてくる。思いだすのは彼の顔だ。

「なんてことを言うんですか!!死んだら、死んだらどうしようもなくなるんですよ!!!!」

私は彼を寝かせた寝室を飛び出した。




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