夢を見た。数年ぶりの夢だった。いつだったか任務の最中、夢を見るまで寝入ってしまって痛い目にあってから、夢を見ないほど浅く眠ることが習慣になってしまったとそう思っていた。早く起きなければ、と気ばかり急いて、なかなか目が覚める感覚がしない、むしろここが現実ではないかと言うほど感覚がハッキリとしていた。真っ暗闇。辛うじて自分の手先は見えるが周りは黒がまとわりついているように見えない。どうしたものかと突っ立っていると横目で光を捕らえ、苦無を握り振り返る。自分の後ろにはふわりふわりと舞う光の玉と泣き崩れる女と俺と同じように立ちつくし、その女を見つめる男がいた。女は黒い服で身を包み、男は何か襲撃にでもあったかのように血まみれだった。ひと際目を引いたのは男の容貌だった。まったくもって自分と同じ容姿なのだ。自分の忍隊ですら自分にここまでそっくりに化けれる人間は居ないだろう。女の泣き声が反響する。繰り返し唱えられる名前はこのそっくりな男の名前だろうか。男が口を開く。そこで俺の視界はあたりをたゆたう光に奪われてしまった。目を開ける。そこには見なれた天井裏は無く、真っ白い天井がひろがっていた。寝そべっていた体を起こし、辺りを見渡す。おかしな、奇天烈なものが陳列されている。一体どういう事なんだ。この狭い場所で何かあった場合対処できないかもしれない。透明な板で出来た扉をこじ開けて外に出た。太陽を見るにまだ日が昇って幾分も経っていないようで俺は地を蹴った。見た事のない屋敷ばかり立ち並び、空にはひもがあちらこちらに廻り張らされている。遠目に森は確認出来る。石のようなもので固められた道路は馬よりも早い箱が走っている。一体ここはどこか。俺が持つ問いは自力で答を探せそうにもなかった。もしかしたら、あの世なのかもしれないな、なんて笑えない冗談を飛ばして一人笑う。指笛を使って、仲間に信号を送れど返答はなし、おまけに使い鳥も来はしなかった。それからしばらく変わり果てた街を飛び、木が規則的に並ぶ森を走った。何も掴むことも出来ず、一つの結論に至る。最初の屋敷に何かあるのかもしれない、と。そう考え付いたのは随分と陽が昇ってからだった。さっさと屋敷へ戻り、あっさりと侵入に成功する。どうやら、この屋敷の住人は向こうの部屋に居るらしい。息を潜める。動く気配はない。何か情報は無いかとするりと住人のいる部屋とは反対の扉をどうにか開けて、屋敷内を隈なく探す。あるのは珍妙な家財と思われる物ばかりだった。先程の扉の前に立てば、どうやら今は部屋を移動し、この部屋に居るようで扉をそっと開けて中をうかがう。すると住人である女は背の低い棚らしきものをぼんやりと眺めていた。情報を得るには女の口を割るほかはなさそうだ、と音を立てずに中へと入り込む。女が突然、息を大きく吸いよし、という掛け声とともに立ち上がる。好機とばかりに女を組み敷いた。女は痛みで顔を歪める。ゆっくりと目を開いて、俺を見た。女は大きく目を開き、下唇を血がにじむほど噛みしめた。ほどなくして女の頬に涙が伝い、嗚咽が漏れ始める。俺はこの女に見覚えがある。正確には、泣いているこの女、だ。



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