ガタンゴトン、ガタンゴトン。
古臭い鉄道は体を大げさに揺らしながら私を運んで行く。
私はその長い道のりのなか、目を伏せて、彼を思い出していた。悲しい記憶の中の不思議な人。悲しいけれど温かくて、幸せだった。



私はもぞりと布団の中で手を動かす。携帯中毒な私はいつもスマホ片手に眠っていて、今も手のそばにスマホが置かれている。電源ボタンを押して、時刻を確認すればおはようとは到底言えない時間だった。まずい、大遅刻だ、そう咄嗟に思ったのだけれど、私はもう仕事を辞めたのを思い出した。そう、宝くじで大金が当たったんだ。それで彼との思い出の詰まったあのアパートを引き払って、何を思ったかもう忘れてしまったがこの一軒屋へと越してきた。私は、ミネラルウォーターをコップに入れて、写真の前に置いてやる。だけれど、まだ手は合わせたくは無かった。手を合わせることはまるで彼の死を認めているようで恐ろしい。彼は、私には勿体無いほどの色男で家庭的で冗談好きで明るくて、優しくて強い人だった。付き合って4年と数ヶ月、同棲し始めて2年と半年、宝くじが当たった直後彼は交通事故に遭って、逝ってしまった。即死だったそうだ。私は、息を吸い込んで勢いよく立ちあがる。朝ご飯には遅いし、昼ご飯には早いから今日は思いっきり掃除でもしようか。まずは風呂場から!そう思い、振り返ろうとした瞬間、強い力に引っ張られ、世界が反転した。どういう訳か勢いよく叩きつけられたせいか体が軋む。よくわからないまま反射的に閉じた目を開けるとそこには。そこには。

「・・・アンタ、何者」
「・・・・・・なんで・・・」

私は下唇を噛む。しかし、漏れ出る嗚咽は止めることが出来なかった。同じように目からはぼろぼろと情けないほど涙があふれていく。目の前の人は明らかに困惑している顔だった。まるで小さな子供のようにしゃくりあげて泣いていた。




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