「なまえちゃん、なまえちゃん・・・・・・なまえ」
強く抱きしめる腕は更に私を抱きしめた。囁くような声は今にも彼が泣いてしまうように感じた。
「俺、なまえちゃんの事が好きだよ、一等愛してるから。ずっとずっと」
瞼の裏で彼と彼の残像がブレて重なる。
「大事にしてやれたかな、幸せにしてやれたかな俺」
でも、死んじまうなんてとんだ甲斐性無しだよな、俺、と佐助さんが笑う。私はぎゅっときつく彼の身体を抱きしめた。
「ごめんな」
光が強く瞼を焼く。ああ、彼は、
「・・・っ、私、私も!愛してるから、だから、」
強く抱きしめていた佐助さんが腕を解いて、私の肩を握る。額に、瞼に、鼻先に口づけを落とす。さらさらと佐助さんが私の髪を梳かす。佐助さんは幸せそうに悲しく微笑んだ。 私も泣き顔を無理やり口角をあげて歪ませるとふわりと柔らかい感触が唇に触れた。その瞬間、シャボン玉が弾けるように光が弾けて、薄く閉じた瞼をあげるともうそこには誰もいなかった。
日にちとは残酷なもので、あれかもう数日が経った。まるで遺品整理のように彼がここにいたと言う証をまだ、棄てられはしないけれど、段ボールにまとめた。彼との思い出の品はこの家にはまだたくさんある。ぽたりと、一冊の本に涙が染み込む。彼が昔、行きたいと言っていた場所の観光雑誌だった。桜が見事で、お団子も美味しくて、皆人が良いとまるで地元のように話していた彼を思い出す。行った事ないくせになんて馬鹿にしていたけれど一度行ってみようかな。 彼と私の写真を見やる。まだ手は合わせられないけど、今度は私が会いに行くから。
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