私は、心底驚いた。リドルが泣くなんて。私は、何も考えずに、ついさっき到達した私なりの彼の存在についての答えを口にしただけだった。一体何がそんなに嫌だったのか、慌てて聞くけれどリドルは、違う、違うんだと答えるばかりでさらに私はうろたえてしまった。リドルは袖口で涙を拭った。私はその光景があまりにも綺麗で息をのむ。リドルが困ったように笑いながらこちらを向く。

「突然、すまないね」
「ううん、泣くとは思わなかったよ」
「僕もだよ」

リドルが濡れた瞳に私を映す。オニキスのような瞳は優しく細められる。

「きっと僕は誰かに認められたかったのかもしれない」
「色んな人に認められてたじゃない」
「僕そのものを認めて欲しかったんだ。ずっと。力を手に入れて、皆僕を賞賛した。けれど、皆が誉め称えているのはその力で決して僕じゃない。その力がなければ、僕は認められない。もし、僕が何も持っていなければどうなる?存在さえ許されないのか」

私は彼の出生を思い出す。
メローピーは、愛の妙薬でトム・リドルと一緒になり、子を儲けた。しかし、メローピーは愛の妙薬を使わなくなり、結果として身重のまま棄てられる。作られて、歪みきった愛の果てに生まれたのがこのリドル。望まれなかった子。
彼の眼にはもう涙は浮かんでいないけれど、泣いているように見えた。私は、一人分空いた隙間を詰めて、彼を抱きしめる。
背中に手を回し、ゆったりとしたリズムでその背を叩いた。

「子供扱いしないでくれ」
「まだ子供だよ」

彼の腕もまた、私の背に回され、しがみつくように抱きしめられる。彼が震えているのを感じて私は目を閉じた。




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