英国人である彼にこの安物の紅茶、おまけにティーバックのこのお茶は彼の口に合うだろうか、そんなことを考えながらお茶を蒸らす。お茶をトレーに乗せ、今日のおやつであったクッキーをお茶請けにしてテーブルに置く。ちらりと彼を見れば、日本の文化にも精通しているのだろうか、日本人もびっくりするような綺麗な正座、背筋でありがとうと笑んだ。
「そう言えば、私貴方の名前聞いてなかったね。私は#苗字##名前#。貴方は?」 「僕は、トム・マールヴォロ・リドル。リドルと呼んでくれないかな」
私は思わず紅茶を噴きだした。トム・マールヴォロ・リドル、トム・リドル。一体これは新手のドッキリか何か何だろうか。トム・リドルと言えばあの有名な児童書の悪役の元の名前じゃないか。しかも、魔法使いでよくよく考えればスリザリンカラーのローブにネクタイ。しかも、アクシオという呪文。
「どうしたんだい?」 「・・・手の込んだ、コスプレか何かですか?」 「コス・・・?」
彼、リドルは怪訝そうな顔をする。
「コスプレが何だかは知らないけれど、君さっき魔法の存在を信じたじゃないか」 「どうせ、何かトリックがあったんでしょう。何も知らない人間があんなもの見せられて、魔法だなんて言われたら信じます。何が目的かは知りませんけど、それ飲んだら帰ってください」 「随分と横暴だね。助けてくれると言ったのは君の方じゃないか」 「トム・リドルのコスプレだかヴォルデモートのコスプレだか知りませんけど、貴方の楽しみに巻き込まれて迷惑です」
私がそう言った途端、ガシャンとカップが割れる。見れば彼の前に置かれたカップとソーサーが砕け散った音だった。私はごくりと生唾を飲み込む。
「なぜ、お前のようなマグルがその名を知っている」 「まだ成り切るつもりなんですか?ハリー・ポッターを知ってる人ならほとんどの人が知っているでしょう!いい加減、それやめて」
ください、という言葉は私の頬掠めた赤い閃光にかき消された。立ち上がった彼を睨みつける。
「お前は何を言っている!ハリー・ポッター?どういうことだ!」 「どうもこうも!成り切るほど好きなら知ってるでしょう!それとも貴方の役の結末でも言ってほしいんですか!」 「意味が分からない!お前は気違っているのか!」 「キチガイは貴方でしょう!いい加減にしてください、警察呼びますよ!」
確かに私はキチガイにしか思えない、今思えば魔法使いだとか言う知らない男を家に上げてお茶まで御馳走して・・・ああ!もうこれどうなってるんだ!目の前の自称リドルは英語で何かを吐き捨てた。私はそばに置いてあった携帯を持って通話画面を開く。視界の端で男がゆらりと揺れたのが見えた。
「アバダ・ケダブラ」
緑の閃光が目一杯に広がった。
|
|