「………っこ、こんなことして、いいんですか……!」

深く押し付けていた唇を離せば、放たれた言葉とは対照的な透明の糸が長く引いた。…満足しているではないか。執務椅子の背もたれに寄りかかる名前の身体を引き寄せ、耳元で冷静に囁く。
執務室に戻ったときはまさか、こんなところで彼女に会えるとは思っていなかった。いつも忙しく駆け回る彼女は引き止めてもせいぜい10分ほどしか話せないし、我ながら気の利いたことも言えない。そんな彼女が近くにいるのだから、いつものような優しくて良い人を演じることもすっかり忘れて無防備な彼女に触れていた。

「勝手に人の椅子で眠りこけていたお前が悪いとは思わないのか?」
「そ、それは…」

未だに抵抗しようと身じろぐ身体。逃がさないとばかりに首筋に顔を埋めればビク、と可愛らしいくらいに震えた。顔を赤く染め、そのまま硬直したように動かない。いつもは饒舌な口元も半開きのままで、思わずやりすぎたかと考えた。しかしその大人しさがどうも加虐心に触れて仕方がない。

「……あまりにジュリアス様の椅子が、ふかふかだった……ので……」

この状況とは似つかわしい言葉が耳に届いた瞬間、堪えきれず噴出してしまった。この娘はなんて単純で、ひねくれたところなんてありそうにない性格をしている。しかし当人は真剣だったようで私が噴出したことにどうやら機嫌を損ねてしまったらしい。

「いや、すまない。そう拗ねるな」
「……別に拗ねてません…」
「そういう所も含めて愛おしいのだ」
「…わ、笑ったくせによく言いますね」

俯いた顔は耳まで赤い。このまま執務室で、とはいかないが自分自身抑えも利かなくなっているのは事実だ。

「名前、顔をあげなさい」
「………」
「…ここでされたいのか?」

自然に頬へ手を滑らすが、意地を張ってなかなか上げようとはしない。長い間同じ地で過ごし、時間を共にしたというのにこの娘はまだ解っていないようだ。私を誰だと思っている?

「……オスカーが来たな」
「っえ!?やだ、嘘……っ、!」

ここ最近、仕事ばかりで立て込んでいたのだ。こんなものでは足りない。欲しいと願ったものはどんなに抵抗されても、汚い手でも、最後まで食らいつく。





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