ぽかぽか陽気やお洗濯日和、そんな言葉が似合う気持ちのいい日。

両手を泡だらけにして目の前の赤い髪を白く染めていく。宙に浮かぶ無数の泡に気をとられ一瞬手が止まると下から声をかけられた。

「どうした?お嬢ちゃん」
「泡風呂っていいですよね」
「そういうもんか?」
「やっぱり子供の頃は憧れてましたよ〜」

止まっていた手を再開させて、徐々に大きな泡の塊を作っていく。せっせと働く私を横目にオスカー様はこの泡風呂に浸かりながら優雅に雑誌を読んでいる。

先日、オスカー様が落馬した。それを聞いた時は珍しくダサいなぁなんて笑いそうになったものの後から聞いた話では街の外れで突然飛び出した女の子を無理に避けたせいでそのまま転落し、利き腕を痛めたらしい。
自分も痛いくせに泣きじゃくる女の子を平然とした顔で家まで送って、その上仕事も済ませてから治療したときいて開いた口が塞がらなかった。この人はどこまでも女性に優しい、そこが良い所であるのだけど。

「悪いな、洗ってもらって」
「いいんですよ。好きでやってるんですから」
「今度は俺がお嬢ちゃんの身体を…」
「結構です」

まいったな、と笑いながら雑誌をテーブルに置いた。シャワーでゆっくり泡を落としていき、たまに赤い糸を手に絡ましたりしてさり気なく遊ぶ。遠くからみてるときは硬そうなのに、案外柔らかくて手触りがいい。

「………なあ、お嬢ちゃん」
「身体は自分で洗ってくださいよ」
「落ちる瞬間、名前の顔が浮かんだ」

シャワーを止め、ぽたりぽたりと落ちる髪を絞っていると聞き慣れない自分の名前が響き鼓動が高鳴る。

「ああ、君の顔がもうみれないのか。君に触れることも、こうやって話すこともできないのか……とな」
「………そんな、大袈裟ですね」
「大袈裟じゃない」

小馬鹿にして笑っていると、オスカー様は不服そうな顔をしてオールバックだった髪をぐしゃぐしゃ乱しこちらに振り向く。いつもの雰囲気じゃなくて、初めて会ったときのような、かっこいい顔をしていた。
いつもそんな顔でいればいいのに。


「またお嬢ちゃんに会えてよかった」

その表情から一転。子供みたいな笑みを浮かべて、私の頬を愛しそうに撫でる。この人には、タラシという言葉がとてもよく似合う。そんなの反則じゃない。耐えきれなくなった私は無言で、オスカー様の首に両手を回した。







ざっぶん、と白波が立った。肌に感じる温かいお湯と身体にまとわりつく泡。そして髪に滴る雫が水面にはじけた。

「………………は?」
「アッハッハッ!どうだお嬢ちゃん、泡風呂に入ってみたかったんだろう?」
「オ、オスカー様…!」

オスカー様に腕を引っ張られ泡風呂の中へ引きずりこまれてしまった。そのまま優しく抱きしめられ、思わず息が止まる。

「まさか、女王候補様と風呂に入るなんてな!」
「だれかに、み、見られたら…!」
「その時はその時だ。さて、服を脱ごうかお嬢ちゃん」
「ハァ!?」

泡風呂の中で丁寧にブラウスのボタンが外されていく。陛下、陛下助けてください、なんて言霊は届くわけもない。
順序よく瞼、頬、首筋へと降り注ぐ熱をもった唇。オスカー様は舌なめずりをして顎に手を添える。

「服が乾くまで愛を深めようじゃないか」

落馬して痛めた腕はどうしたんだってくらい力強く抱きしめられ、その腕によって泡の底へ沈んで落ちた。




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