身体の中まで射通すかのような明るい陽射しに、瞼が持ち上げまいと拒絶しているようだった。横たわった身体も鉛のように重く感じ、起きようとするが言うことをきかない。
私は、貧血かなにかで倒れてしまったのだろうか…。心優しい誰かが救急車を呼んでくれて、それで病院まで運ばれて、日の当たる病室でねむっているに違いない。このまま誰かが訪れてくるまでゆっくりと休もう。

少し経ってから、脳裏に友人の顔が浮かんだ。そういえば私は待ち合わせをしていたんだ、もしかしたら事情を知らないままあそこで待っているかもしれない。(連絡しないと…)そう思った途端、さきほどまで頑なに動こうとしなかった身体がすうっと持ち上がった。そして、瞼もすんなりと開く。

「……まぶ……しい」

滲む視界が鮮明と景色をうつしだしたとき、陽射しなど存在していなかった。それになぜ気付かなかったのだろう。私が横たわっていたのはベットではなく大理石で、それどころか視界にうつるものすべてがきらきらと輝いている…ただの廊下だった。





扉を開けて





たとえゾウが一匹いたとしても十分なほど高い天井に、見たことのないようなシャンデリアが一定感覚で吊るされていて。なんで私はこんなところで寝ていたのだろう。廊下に人気はなく、窓がないために今の時間さえ分からなかった。こうしてはいられない、はやく戻らないと、ひんやりとした大理石に手をついて立ち上がった。

「…あら?どこにいくの?」

人だ!人がいた!
とりあえずほっと安堵し振り返ると、変わった髪色をした気品あふれる女の子が不思議そうに立っていた。同い年か、すこし年下か。まるでお人形さんのような顔立ちでくるくる巻かれた巻き毛が特徴的である。この子に道を聞いて、はやく元のいた場所へもどろう。

「ちょっと道に迷ったみたいで。あの〜出口はどこですか?」
「…?迷ってなんかいないわよ、この扉であってるわ」

女の子が指した方向へ目をやると、天井までつづく大きな扉がそこにあった。…あれが出口なのだろうか。

「ありがとう。…ねえ、ここすごいね?どこかのお城かな?」
「……さっきから何を仰ってるの?当たり前じゃない、ここは聖殿なのだから」
「せい、でん?」
「…ああ、もう!これがこのロザリア・デ・カタルヘナと同じ時代の女王候補なの!?情けないわ!」

彼女は聞いたこともないような単語をならべて、私に対して苛立ちを表した。ここは聖殿…彼女はロザ…なんとかさんということだけは理解できた気がする。彼女をこれ以上怒らす前にさっさと出口へ向かった方がよさげだ。

「ご、ごめんね。じゃあわたし先に行くから」
「ちょ、ちょっと!一人で行ってどうするの!…本当にこれが女王候補なのかしら」
「……じょ、じょおう…?」

目の前に阻む扉に手をかけた途端、華奢な手で腕を掴まれた。もう何がなんだかわからない、ここはどこで、私は何のためにいるのか。

「あなた、名前は?」
「へ?あ…えと、ハナコ」
「そう。わたくしはロザリア・デ・カタルヘナ。手加減はしないわよ、ハナコ」
「て、手加減って…」

向けられた視線からは敵意のようなものが伺えた。「ほら、行くわよ」そう告げて、ロザリアは出口へつづく扉の前へ足を揃えて立ち止まる。その行動を真似て隣へ並ぶと、妙な緊張感のようなものを感じた。なんとなく、ここは外につながる出口ではないことを心の片隅で理解していたかもしれない。